「カツカレー大盛り」
「えー、またカレー?仕方ないなぁ…明輝、行く?」
「う、うん!」
最近恋人が出来た、しかも年下のべらぼうに可愛い奴。
そう木津がはしゃいだのも数日だけで、あんまり話してくれないんだと長い事ウジウジキショイ姿を見せられて、そろそろ殺してやろうかと親友を見つめていたら、いつの間にかこいつの恋人とその友達とやらと昼食をしなければいけない状況に陥り、俺の機嫌は底辺スレスレだった。
なのに呑気に三咲とやらと手を繋いで券売機へ向かう背中を見ていたら、水をかけたくなるのも仕方ないだろう。
その衝動をなんとか押さえ込んだせいで苛々が増したまま、向かいに座った男を見た。
「んだ?なんか文句あっか」
「え?っいやいや!何もないです!えらいかっこええな思て!」
「あそ」
そいつは最初っから今の今まで俺の顔をガン見していた。
声をかけると慌てて顔の前で手を振り、ほんのりと色付いた健康的な頬を緩ませる。
あまり聞いた事のないイントネーション。周りには居ないタイプだった。
「お前も大変だな」
「え、何がですか?」
「あの恋人繋ぎの間を通ってやりてぇって思わねぇの?」
「思ったんですか?」
「ったりめぇだろ」
何が悲しくて人の惚気ばかりを聞かなくてはならないと頭が痛くなる。先程投げてしまうか悩んだ水を煽ると、冷たさに慰められた気がした。
「俺は羨ましいです」
「あ?」
「いいなー…好きな人と手とか繋いだ事ないもん」
カウンターで待つ木津達をぼんやりと眺めて、一宮がやんわりと目を細めた。
三咲のように女性的印象を感じるような男ではないが、その時の表情は久方ぶりに俺の庇護欲を掻き立てるもので。
「好きな奴いんのか」
普段なら吐く事のない疑問を言葉にしたのも、それに吐き気すら覚えたのも、無意識だった。