前略
我が親愛なる素敵で愛しの総長様

我輩はあなたの事が好きです
大好きです
愛しています

どれくらい愛してるかってゆーと、多分素手でミミズ掴めるくらいです。
嘘ですごめんなさい蛾を掴めるくらいです。でも大好きです。
生まれ変わっても総長に会いたいです。そんで、もしよかったら是非愛人にしてください。正妻だなんて我が儘は言いません。
一ヶ月に一度しか会えなくて大丈夫です。その為なら神様に土下座して足舐めて女の子にしてもらいます。
とりあえず愛してます。
敬具

うぜぇ黙れカス馬鹿ゴキブリに生まれ変われ
したら全力で叩き潰してやるからよ

ありがとーございますがんばります!!!!!

「ねーゴウ俺この手紙どこからつっこめばいいー?」
「手紙自体」
「返事書く総長にもだねー…」


【馬鹿とはじめて】


チュドーンバキューンズガーン。
馬鹿含む四人の視線を独り占めしていた画面の中で、四体のパイロットが名誉の戦死を遂げた。
GAMEOVER。
耳に残らない適当なBGMが流れる室内は、それ以外の音が一切ない。原因は、俺。わかっていたが戦死した彼らに送る追悼は微塵も浮かばなかった。

「…………」
「そこの馬鹿以外全員退室。3秒やる。スタート」

いーち、にー、さーん。
ポカンとしたいつもより大人しい馬鹿を置き去りに、カウントが1の時点で友達らしき奴らは真顔で部屋を飛び出した。残された俺と馬鹿、コントローラー、そして携帯。素早い動きを褒める余裕は何故か今はなかった。

「そーちょーが見えます…」
「いやお前目ぇ閉じてんじゃん」
「そーちょーのお声が聞こえますぅ…っ!」
「幻聴じゃねぇよボケ」
「ぬぉぉぉ痛覚正常オールグリーン…!」
「意味わかんねぇよ…」

お菓子やらジュースやらが散らばった部屋、カーペットに座る馬鹿の頭を蹴ると倒れ込みながら馬鹿がケラケラと笑った。酔ってんのかと思ったが、いくら下戸でもカルピスじゃ酔わないはず。
俺は勝手にベッドに腰掛けて、馬鹿を呼んだ。

「おい、聞けや」
「はい!」
「俺は考えた」

何を?と聞きたそうな視線を黙殺して、ここ暫くの苦悩を思い出す。
こいつにいきなり告られて、つか告るだけ告って放置されてから。
はっきり言おう、嫌な気はしていない。
確かに馬鹿だしうぜぇしストーカーだし意味わかんねぇしキモイしうぜぇしストーカーだし馬鹿だが、純粋に好かれてるのは何となくわかってきたからだ。
よく見りゃ顔も割とストライクゾーンにギリギリ入ってるし、反抗される事が嫌いな俺にとって従順な態度は魅力。女は好きだが見た目で寄ってくる奴らは馬鹿ばっかりだし、それはこいつと変わらない気がするけど馬鹿具合が可愛くないのだ。どこに連れて行けだの迎えに来いだの、鬱陶しい事をこいつは言わない。知っている。

問題があるとすれば、ただこいつが男な点だけだ。
俺の股間にぶら下がってるモノがこいつにもぶら下がっていて、突っ込む入口はなく出口だけ。それ以上の深刻な問題はない。
だからどう考えてもお断り、なはずだった。

「俺が好きか?」
「だいっっすきです!」

間髪入れずに叫んだ馬鹿に笑みを零す。

ゴウは言った。
あれが自分のモノになっても文句は言わせない、と。
その瞬間にゴウの顔面を捻り潰したくなる程の激情に襲われて、それがどんな意味を持つのかわからない程チェリーじゃない。

優越感を感じていた。こいつに、好きだと言われる度に。
ゆっくりと思考を纏めるつもりだった。いや、本当は適当に利用してやるのもいいかもしれないと思っていた。

だが、よくも悪くも、ゴウの一言で焦燥感を味わったのは事実だった。
どうかわすか、どう逃げるか、どう使ってやるか。そんな打算的な考えから、瞬く間に変化を遂げた思いは最終的に、俺がこいつをどうしたいのか、という疑問にすりかわる。

真夜中一人自問自答した俺は、答えがすぐ様弾き出されて頭を抱えた。

「俺と、どうなりてぇんだ、てめぇは」

他人のモノになるのは我慢ならない。
それなら導き出されるものはただひとつ。

自分のモノにしたい。支配下に置いておきたい。少なくとも、俺がこいつに興味を失うまでは。

「どう、と言われても…」
「告って満足か?ちげぇだろ」

早く言えと態度で急かす俺から馬鹿が目を逸らす。
それが気に入らなくて、俺はベッドからチビの目の前に移動し座り込んだ。
ふよふよと黒目が泳ぐ。あんな堂々と告白して来た割に純粋な、からかいたくなる表情だった。

「どうしたい?キスしてぇ?セックスしてぇ?デートしてぇ?」

三つ目のものはともかく、前の二つは丸きり俺の願望だった。
馬鹿はキョトンと惚けた後、ゆっくりと瞼を伏せる。そして色付いた唇を二、三度震わせ、コクリと頷いた。

「…なら、すんぞ」

拒否されるだなんて事は万が一にも有り得ない。元々そのつもりだった俺は、性を覚えたての中坊みたく性急に馬鹿をベッドに引きずりこんだ。

何か言いたげな表情を追求する事なく、憂う視線を気に留める事も、なく。

+++

「はぁ…っい、ぅ…」

柔らかそうな赤毛が股間辺りで上下に揺れる。その度に自身を襲い来るのは、今までで一番の微弱な刺激だった。つまりは下手くそ。
それでも起立が萎れる気配を見せないのは、偏に馬鹿が浮かべる口淫最中の顔と、身長に見合った細っこい指が細っこい腰の更に奥、出口である部分に埋まっているからに過ぎない。下手くそな愛撫でも興奮してしまう程、それは淫靡さを持っていた。

「おい、自分じゃ無理だろ。指抜け」

いつまで経っても広がらない後孔に焦れていたのも、確か。
だがそれ以上に、苦痛を訴える表情を和らげてやりたかった。普段ならそんな事思うはずがない。おかしな感情だった。

けれど馬鹿は俺自身をくわえたまま緩く首を振る。
しかめた眉間と、苦しさと痛みで水の膜を張った瞳が、どれだけ体に負担がかかっているかを殊更に教えた。

「っは…大丈夫です、楽にしててください!」
「てめぇ初めてだろうが」
「大丈夫です。頑張ります」

顔を上げた馬鹿はへにゃりと目尻を緩ませて、擦り過ぎて痺れたらしい唇で笑みを作った。

何もしないでください、俺が全部やります。

服を脱がそうとした俺にそう言った馬鹿は、その後から、俺が手を伸ばす度に申し訳なさそうな顔で謝った。触られたくない。そんな態度。
受け身のセックスはした事がない。だからたまにはいいかと大人しくする事に決めた十数分前の自分の背中を蹴り上げたい。そんなセックス、ちっとも楽しくないぞ、と。
そう思うのに、もう全部自分の手で抱いてやりたいのに、どうしてか律儀に小さな体を眺める、今現在の俺も。

「すいません、もう入れます」
「や、無理すんな」
「わ!総長優しいです!俺幸せっス!」

ケラケラと、唾液と先走りで汚れた顔面を歪めて馬鹿は笑う。
そしてまごつく俺の肩をゆっくり押して、慎重に、真剣に馬乗りになった。
勃ち上がった自身を支える手は冷たい。まだ明るい室内に嘘みたいに存在する小さな体の中心は、力無くへたれたままだった。
だから少しでも気持ち良くさせてやろうと手を伸ばした俺のそれを、軽く音を立てて馬鹿が叩き落とす。ポスンとベッドに沈んだ右手を自覚して睨むと、泣きそうな顔をされてギョッとした。

何と声をかければいいのかわからず、馬鹿も何も言わないまま。
見つめあったまま自身の先が粘膜にぶつかり、その温もりを感じた瞬間、

「いいぃぃぃっ…たぁっ…」
「……っ、」

あろう事か馬鹿は一気に、まさに一思いにと言わんばかりの勢いで自身の上に腰を落とした。
全体が熱い壁に包まれ、腰骨にちっさいケツがびったりとくっつく。
うねうねと、上の口とは違いきつく快感を齎す内部。その気持ち良さに酔いしれ本能のまま腰を突き上げようとした時、視界に顔色を失った馬鹿が映った。

「っおい、目ぇ開けろ!」
「ぅぐ…は、はぁっそー、ちょ、いっ!」
「ぅ…わり、」

慌てて起き上がったせいで圧迫感と苦痛が増したらしい、ひゅーひゅーとか細い息を繰り返す馬鹿の目尻から二筋涙が流れた。
どうして無理矢理にでも俺の手で準備してやらなかったんだ、そんな意味のない後悔が熱くなった頭を急速に冷やす。
体を支えて、それからゆっくり抜いて。そんな風に優しくする事ばかり考えていた俺は、さ迷う馬鹿の左手を掴もうとして、寸前で握り拳を作られたのに拒絶を感じ固まった。

「すい、す、いません、そーちょ、」

薄く開いた瞼と唇。血の気の失せた頬。
俺と比べれば細く頼りない肩幅で、どうしてこいつはあんなに喧嘩が強いんだろう。

スローモーションで閉じていく瞳。
その間際、馬鹿は譫言のように笑いながら消え入りそうな声で囁いた。

「俺、は…愛して、ほし、で…」


そう言って力無く倒れ込んできた身体を抱きしめてやっと、俺はこいつの身を触る事が出来た。
それを至福と感じるのは、きっと間違いなんかじゃない。

意識がない間しか抱きしめられないなんて、

(…そんな我が儘言わせねぇよ)
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