身長159センチ、体重48キロ。
寝癖だらけの赤毛は痛みが激しく、眉は半分洗面所に流してしまった。
ネクタイは胸ポケットの中で永眠中、小さいくせに腰パン主義な為ズボンの裾はボロボロ。
見えない場所のオシャレ、つまり下着と靴下は無駄にカラフルなものを好む高校二年生。

今更だが、今作の主人公はそんな馬鹿である。


【馬鹿とわるぐち】


「平和だなぁ」
「キミ平和の意味理解してるー?」
「もちですのことよ!とりあえず皆仲良くが基本ですよね!」
「うん今襲撃受けてんだけどねー」

小さな声で俯きながら話すヨシさんの声は聞こえなかった。
まぁいいや、と膝に乗るゴウの頭を猿の真似をして毛繕いしてみる。綺麗な茶色で悔しいぞ、少しはプリンになっててもいいものを!

ヨシさんは体育座りでぼーっと前方を見つめ、その隣で総長は最近嵌まっているクロスワードに夢中だ。答えを紐解く総長。真剣な総長。ああん俺を紐解いて!総長!

「ぐぁぁぁっ!」
「おりゃぁぁっ!」
「死ねカス!」
「カスはお前だカス!」

そんな俺達が並ぶ店先では、下っ端達が血ヘド吐きながら喧嘩中。
なんか、どこのチームなのかも、なんで喧嘩になってるのかもわからないけど、攻めて来たらしい。
喧嘩大好きな俺だけど、今日は不参加表明。だって女の子の日だもん。

「ねー。なんか苦戦してるぽいよー。行ってきなよナンバー3あんど4ー」
「えー。無理ですー、ゴウたんが睡眠中なのですー」
「ちょっ、そんな事言ってないで助けてくださいよー!こいつら鈍器持参っスよー!」

鉄パイプやらレンガやらを紙一重で避けながら、下っ端Aが泣き言を叫んだ。うーん、殺す気で来たのかあいつら。今なら少年法に守られるもんな。なんて賢い。

そう感心した時、相手の頭らしき人物が人混みの中心で叫んだ。

「ここの頭は腑抜けか!参加しねーんならその無駄にお綺麗な顔グチャグチャにしてやんぜぇ!」

プッチンプリン!

「じゃあその前にてめぇの脳みそストローでチューチューしてやんぜ!」

立ち上がる。膝からゴウの頭が勢いよく落ちて素敵な音がしたが、起きる気配もなく本能のまま今度はヨシさんの膝上に移動した。
手を振るヨシさんに目潰しピースを返し、頭を思い切り叩かれて気合い充分。
俺は、店先で、総長への愛を叫ぶ!

「総長の悪口ゆった奴!総長ラブな俺が叩きのめっす!」
「うっせチービ!」
「俺はチビに誇りを持っている!だからその挑発文句は褒め言葉だ!」

もはや一つの集団と化したそこへ突っ込み、片っ端から殴り飛ばしていく。この前もらったメリケンさんが大活躍だ。うちの家宝。
よくわからなくて何人かが「俺仲間っス…!」と倒れていったが気にしない。失敗が人を成長させると担任が鼻息荒く言っていた。
小さな俺様は大きなお前達より小回りがきくんだぜ!
ワゴンよりケー!これ常識。

「なんっだてめ、やるな…っ」
「総長の悪口はこの俺が許さん!てやっ!」
「うぐへ!」
「悪霊退散!」
「まだ死んでねぇ!」

いつの間にか過半数が呻き倒れる中、総長の悪口を言っていた奴を殴る。だが曲がりなりにも頭らしき人物。打たれ強い。
これは中途半端に強いラスト一本手前の中ボスクラスだ。持久戦に持ち込まれてアイテムを使い果たし、歎いたのは記憶に新しい、

「おーい、愛しの総長が見てるよー」
「マジすか!うおーぉ!総長愛してまーす!」
「…いいからはやくやれ」
「はい!」

ヨシさんの声に反応して振り返ると、総長が、あの総長が!俺を真っすぐ見つめているではないか!
これは男として格好よくキメなければいけない。

そう踏んだ俺は、男に向かって走り、その肩に乗り上げた。所謂逆肩車。

「ぅわっ」
「くらえー!俺スペシャル!」

そのまま頭を足で挟み込んで、重心を後ろに落とす。
男の足の間に手をついて挟み込んだ頭を後方に投げ出すと、綺麗に男が吹っ飛んだ。

「それプロレス技じゃーん…」
「昨日の晩見たんです!一度やろうと思ってて!」
「お前マジで素人か…?」
「ペーペーでっす!」

最初に出来なかった変身ポーズで最後を締め、生き残った下っ端達に片付けを任せて元の場所に帰る。
その際倒れた奴らから紙幣を抜き取る事も忘れちゃイヤン。授業料だ授業料!

「けっこーえげつないよねキミ…」
「ありがとうございます!総長の悪口ゆったら私刑って決めてますから!」
「ふぅん、私刑なのか」
「俺が総長を悪から守ります!安心してクロスワードしてくださいね!」

ガバリと頭を下げると、総長が含み笑う声が聞こえた。
そして一拍置いて、衝撃的な言葉が降り懸かった。

「今日は走り行くか。全員で。お前、特別に俺のケツ乗せてやるよ」
「キミ免許ないもんねー」

そうなのだ。俺の学校は免許取っちゃいけないから、先生の言う事はきちんと守るをモットーとした俺は勿論取っていない。
いつもはゴウの後ろに乗って走りに行くんだけど、今日は!今日はなんと!総長のお誘い!でも!

「いえ!いいです!ゴウの後ろに乗るんで!」
「「は?」」

ズルリと総長の手から雑誌が落ちた。ヨシさんと二人、間抜け顔を惜しみ無く晒す。

「キミ…総長の事好きなんでしょー?」
「あ、はい、勿論!」
「ならなんで乗らねぇんだ」

不機嫌そうに眉根を寄せた総長が、顎を引いて睨み上げて来る。
何に不機嫌なのかわからなくて、俺は首をかくんかくんと左右に倒した。

「何言ってんですか、そんな俺ごときが総長と相乗りなんて烏滸がましい!俺はゴウの後ろが妥当です!ベストポジションです!でもちゃんと総長のアルバムに追加する写真は撮るんで、安心してくださいね!」


(こいつの好きの度合いが掴めねぇ…)
NEXT