今日の一位は、

おめでとう!
おひつじ座のあなたです
大好きな彼に告白するなら今日しかないよ!ラブ運は鰻もビックリな急上昇中!
ひたむきな恋心をぶつければ、彼はきっとあなたにメ・ロ・メ・ロ!


【馬鹿とこくはく】


朝一番の割とよく当たる占いをしかと受け止めた。
四人の姉にセットされまくった髪は、いつもの寝癖など見当たらないくらい完璧だ。姉ちゃんズありがとう。
そして、俺はいくよ。

「愛する総長の元へ!」
「うるさいぞチビー」
「そうだよチビー」
「ありがとうありがとう!皆して俺をそんな応援してくれるなんて…俺頑張るよ!」
「…そうかよチビー」
「…当たって砕けろよチビー」

クラスメイトの暖かい言葉に涙が出そうだ。
でもここで泣いてはいけない。
俺が泣くのはホタルの墓を見た時だけと決めている。
優しい彼らに見送られて、俺は今から出陣するんだ。
場所など愚問だ。いつもの愛の巣へ!

「総長ー!」
「あいつマジ馬鹿だよな」
「あそこまで馬鹿だと国宝に申請してぇよな」

+++

「こんちは!」
「静かに開けなよねー。はいこれキミに言ったの何回目?」
「忘れました!」
「馬鹿正直も程々にねー」

勢いよく溜まり場の喫茶店の扉を開くと、もはや日常と化した言葉が飛んできた。
カウンターに肘をついて格好よくメロンソーダを飲むのは、うちのナンバー2、ヨシさんだ。金髪の後ろ髪を雀の尻尾みたいにくくってるのがカッコイイ。
実は真似しようと姉ちゃんズに相談した事があるが、皆一様に冷たい目を俺に寄越した。なんでだろう。

「おー?なんか今日キメてるー?」
「え!?俺薬物には手出してませんよ!?」
「…そうねー」

そりゃ喧嘩はしますけど!大好きですけども!
総長の次に憧れな彼からそんな疑いを持たれるとは、俺の顔はジャンキー臭さ満載なのだろうか。
ズズズー、とソーダを啜る音をBGMに、カバンから鏡を取り出して見つめてみる。
ううーん、どちらかと言えば…

「いつも通りの顔……」
「何残念がってんのー。さっきの冗談だから気にしないでー」
「あぁなんだ!そうですか!」

溜め息混じりの彼に安心してぺたんこのカバンをソファに置こうとすると、そこには先客が。
半分分けてほしいなぁと毎度思う長い足を投げ出して横たわるその人は、うちのナンバー4、ゴウ。
同じ歳だから仲が良い彼は、あまり会話をしない方だしいつも寝てるけど、一緒に遊びに行くととても面白いんだ。
すぐ人が寄って来て、喧嘩が出来る!
俺はゴウの事をトラブルメーカーと位置付けたのだけれど、これに賛同してくれるメンバーは一人も居なかった。

「ゴウー、足ちょーだい」
「ん…」
「わあい!ヨシさん!聞きました?」
「ソーデスネー…はぁ」

ゴウに足を分けてもらう約束を取り付けた俺の機嫌は絶好調だ。
気持ち良さそうに唸るゴウの腹の上にカバンを置いて、気合いをいれるべくその場で伝説のヒーロー、ソードマンの変身ポーズを決める。
これやった後は大抵、俺喧嘩めちゃ強くなるかんね。

「ヨシさん!総長来てますか?」
「ん?あぁ、上」
「じゃあ俺、告白してきますね!」
「ぶはっ!」
「いってきまーす」
「ちょちょちょ、まっ!」
「もー、ヨシさんそれ何の呪文ですかー」

ヨシさんが上と指したのはここの二階だ。元々総長のお兄さんが経営するこのお店は常連さんと俺達しか来ないような立地に建てられていて、今では総長が勝手に改装したりしている。二階はほぼ、総長のプライベートルームだ。幹部しか入っちゃいけないんだぜ!

とまぁ、そんな場所へと行こうとしのだが、ヨシさんはカウンターへ盛大にメロンソーダを吹き出して、俺の後ろ衿をつまみ上げた。

「メロンソーダのお代わりは申し訳ないですけど後にしてください」
「そうじゃなくてね!何、総長に何の告白!?」
「そりゃ勿論、愛してる!です」
「待って、本気で考える時間ちょーだい。今何からツッコムか吟味する」
「はーい」

傍らにあったタオルで丁寧に口元を拭いながら、ヨシさんは数度頭を回した。喉のラインが綺麗。あ、黒子発見!

「あー…どうして急に」
「はい!今日占いで、告白するなら今日!って言ってました。おひつじ座はラブ運絶好調なんです!」

嬉々として答えた俺を、ヨシさんはまた溜め息をつきながら解放してくれた。
元からある程度乱れてるけど、更に乱れた制服を軽く直す。
衿オーケー。腰パンオーケー。よーし靴下オーケー。

「…まぁ、頑張りなよー」
「はい!ありがとうございます!」

ヒラヒラと手を振るヨシさんに笑顔を返して、俺は階段を駆け上がった。
扉を開けば、強くてかっこよくて、髪の毛のキューティクルがアイドルなんかに負けないくらい綺麗な、愛しの総長が居るのだ。
逸る心臓。こんなに興奮するのは、きっと修学旅行で北の国からの撮影地を巡った時以来だ!

「総長!居ますか!」
「居ない」
「失礼します!」
「聞いちゃいねぇ…」

作った拳でドアを叩き、返って来た麗しの総長の声に俺は既に耳から心臓が飛び出しそうだ。
座る時は地べた派の総長の意向で室内にはフッカフカの黒い絨毯が敷いてあって、その真ん中の定位置には総長が居る。
真っ黒のキューティクルは今日もキラキラ輝いていて、今すぐにでもそれに櫛を通したい!俺の手で!

暇潰し用の携帯ゲーム機を覗いていた目がこちらへ向けられて、小さな溜め息が吐き出される。それがもったいなくて、慌てて大きく息を吸った。

「…何やってんだ」
「総長の溜め息吸ってます!」
「…………へぇ」
「総長!お話があります!」
「あ?」

よーしやるぞ俺!
溜め息パワーと占い効果で、今の俺に怖いものなどない!
怪訝な顔で眉を寄せる総長に、俺はありったけの大声で叫んだ。

「総長!愛してます!」
「へぇ」
「では失礼します!」

言った!言ったぞ!
小学生の頃大好きだったミナミちゃんには言えなかったのに、俺は総長に言った!
これが成長と言うやつか。くぅ、俺はもう一人前だ。

入った時と同じく扉を勢いよく閉めて、階段を駆け降りた。
たったこれだけの距離で息の上がる俺を見てヨシさん手招く。
メロンソーダは新調されていた。

「どーだったー?」
「言いました!」
「返事はー?」
「へぇ、って」
「え、それだけ?」

そうですよ、と返すと、ヨシさんが間抜けな顔をした。なのにカッコイイ。総長が一番だけど!

「相槌打ってもらえました!俺幸せです!」
「あ、そう…ならいいんだー」

ガクリとヨシさんが肩を落とした時、二階から大きな衝突音がした。
もしかして総長があんまりにも強いからゴジラでも襲撃に来たのか、と慌てる俺を他所に、ヨシさんは落ち着いた様子でカウンターに腰掛けた。

「ほっときなよー。思春期の爆発だからー」
「あ、ならそっとしときます」
「ねぇキミー」
「はい?」

今日の仕事は終わった。
俺は抹茶ミルクで俺を労るべくカウンターに入った。

メロンソーダの氷をストローで弄びながら、ヨシさんは首を傾げた。

「キミ、おひつじ座だったっけ?」
「いえ!俺乙女座です!」


(ああそうだこうゆう奴だった)
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