過ぎる時間が驚く程足早に感じた

つまりはそう
名残惜しく思うのも全部

そんな一瞬を
一つたりも忘れたくないと
物理的に無理な事を願った

【secret】

どう、なっているんだ。
俺はここに来て何度目かわからない台詞を心の中で呟いた。

もう片手どころか両手でも足りない。きっと片足の指を合わせて足りるか足りないかといった微妙な所だ。
まぁそんな事は今どうでもいい。

「イロハ大丈夫ー?目がイッちゃってんよ」
「うるさい今必死なんだ放っておいてくれ」
「いやいや全校生徒に痛い子だって思われたいなら別に構わないけどさぁ」

リクがぐるりと講堂を見回す。
それに倣って同じ動作をした俺の視界には、羨望と嫉み、それから称賛を含んだ瞳が向けられているのが映った。

あっという間。あれよあれよという間に。訳もわからず。
まさにそんな状況。
説明?無理だ。
是非とも俺がお願いしたい。


「只今より結果発表を行います」

並ばされた俺達とは違う場所でマイクを握るのは副会長。
そこには生徒会役員の二年生組がズラリと揃っていた。

こんなに近くで姿を見る日が来ようとは。

別にファンでも何でもないからどうでもいい部類には入るのだが、恐らくその素晴らしい美形軍団はそうお目にかかれない。だから眼福とばかりに並んだ美形達をガン見していた。

とは言え、幼なじみなりルームメイトなり、…先輩達なり。
稀な確率であるはずの美形が、周りには結構生息していたりするのだが。

「……こらイロ、見すぎ」
「痛、…スイマセン」

隣に並ぶ先輩の手が強引に、俺の顔を自分の方へと向けた。
不機嫌そうな表情。その向こうには風紀委員長。
更にその横には、最近編入してきた噂の人物と金髪の生徒会役員、野球部らしい出で立ちの二人が立っている。

それより首が痛い。かなり無理な体勢だ。
しかも役員達から顔を背けているこの状態はかなり失礼ではなかろうか。
ガン見していた事実は都合が悪いので、棚に上げておく事にする。

「…東雲、もう少し我慢を知れ」
「………」

しぶしぶ、そんな表情で先輩は俺を解放した。風紀委員長様々だ。

前に向き直ると、倉持さんがこちらに視線をやって微笑ましそうに笑っていた。
何故だろう、あの人恐い。

「今回最後まで逃げ切ったのは彼ら4ペア。こんなに残るとはね…。自滅するだろうと思ってたけど、僕はまだ甘かったみたいだ。彼らに盛大な拍手を!」

気恥ずかしい拍手の音を聞きながら、倉持さんの言葉に今更納得した。

最後殆ど鬼を見かけなくなったのは、自らトラップに引っ掛かる事を前提としていた訳だ。
なんと怠惰な。言えないけれど。

「それでは商品授与に移ります。呼ばれたペアから希望を発表して下さい。まずは多田、八坂ペア」

そう宣言した倉持さんは下がり、野球部ペアが真ん中に設置されたマイクへと向かった。
その二人が喜びを表すように意気揚々と「野球部の備品全て買い替え!」と叫ぶ。
「許可」
「OK」

会長が一言発すると、副会長が手元の紙に何やら書き出していた。
それと同時に、生徒達の中の野球部員だと思われる人達がガッツポーズで雄叫びを上げ喜んだ。
そんなに古かったのか備品。おめでとう。

「イロハ、何にする?」
「と、言われてもな…」

何でも、と言われても大して欲しい物などない。ぶっちゃけると逃げ切る予定もなかったのだ。
ただ先輩達と歩いていたらいつの間にか終了のチャイムが鳴っただけで。

どうする?決めてよ、お前が決めろ、どうしよう。
すぐにまわって来るであろう自分達の番の為、そんな会話に夢中になっていると風紀委員長と先輩が戻って来た。いつの間に行ったんだ。

何やら不気味な程静かな事に気付き、講堂内を見渡す。
皆恍惚とした視線を二人に向けて、しかも一部の生徒は泣いていて。役員達と編入生ペアは何故かクスクスと笑っていた。

「何、したんだ先輩達…」
「俺聞いてなかったし…」
「イロ、決まってねーのか?」