ブラウン管の中にうつる映像は、流行りの映画の1シーンのように思えた。
ざわめき立ってつんざく悲鳴の中、無機質に次々と表示される白い文字の羅列を、
私はただ、
無感動に見てるの。
【 さよなら 】
「何もないトコロね」
「たまにはこんなのもいいだろう」
車の外を流れゆく景色は、代わり映えのしない平坦な草原。
青々とした広い場所に真っ直ぐ通る一本道を、あなたとわたし。
人もいないし、家も駅もスーパーもなくて、なんだか私たちの住む世界じゃないような、そんな気分。
わたしは楽しそうにハンドルを握るあなたのせいで、また楽しくなった。
「今日はね、久々に二人でお出かけだからお弁当頑張ったの」
あなたの好きなピーマンの肉詰めに、キノコのオムレツ。
それから、意外とお子様なあなたのためにハチミツ梅のおにぎりでしょ、それからそれから…他にもいっぱい。
もちろん、食後の紅茶とマドレーヌも忘れない。
ね、がんばったでしょう?
そう聞くと、嬉しそうに口を手で覆って笑うあなた。
「そんなに食べられないよ」
嘘ばっかり。そんな事言いながらいつも全部食べてくれるじゃない。
…そんなところ、大好きよ。
そう言うと、あなたは耳の裏側を人差し指で弄るのよね。照れてる時の癖。
「…この辺で食べようか。美味しそうなメニュー聞いたら我慢できなくなったよ」
車を停めて、いそいそと私の膝の上のバスケットを持ったあなたは、もうすでに芝生の上。
馬鹿ね。耳が赤くなってるわよ。ホント、嘘のつけない人。
「早くこないとなくなるよー」
待ってよ、私の分も残しておいてね。慌てなくてもお弁当は逃げないんだから。
私が隣に座ってお茶を入れたコップを渡すと、あなたはニッコリ微笑んだ。
ありがとうと一言。
後は目の前のお弁当に夢中。
一々美味しい美味しいと言いながら、本当に美味しそうに食べるの。
そんなに美味しい?って聞いたら、
「当たり前だよ」
だって。
幸せだわ。
すごくすごく、幸せ。
ねぇ、あなたは幸せなの?
「幸せに決まってるだろう」
最後の一口になった春巻を頬張って、頭を撫でてくれた。
それじゃあ、これからもあなたが幸せで居られるように、美味しいご飯を作るわ。
何年か経ったら子供もつくろう?
あなた似の男の子を生んで、あなたと遊んでるところを私がデジカメを持って追い掛けまわすの。
どう?いいと思わない?
…
…
……
………どうして、泣いてるの?
「ごめんね」
やだ、泣かないでよ。
何にも悲しいことなんてないわ?わたしはあなたの側にずっと居るの。
毎日会社の人が羨ましがるようなお弁当を作って送り出すの。可愛い息子と三人で、たくさんお出かけもして思い出でアルバムを一杯にしましょうよ。
あぁ、風が強くなってきた。
今日はあなたが楽しみにしてたサッカーの試合が生中継だから、早く帰らなくちゃ。
ね、
帰ろう?
私と一緒に帰ろう?
…
………
…………
「ごめん」
……いやよ、
「僕は帰れないみたいだ」
わかってるわよ。
死んだんでしょう?
私をおいて、
ひとりぼっちで、
遠いところにいくんでしょう?
「泣かないで」
失礼ね、
私 笑ってるじゃない。
私を呼ぶ声がうるさいの。
私、一人で帰らなきゃダメなのね。
もう逢えないのね。
「ごめんね」
「美味しかった」
「俺は誰よりも幸せだね」
「ありがとう」
「りょうこ、あいしてるよ」
それじゃ、
またね。
end
(連れていってと縋りたかった)