だから俺はそんなユズを誤解していた事に気恥ずかしくなり、視線を斜め下に落とす。
恐怖とかのイメージはなくなっているけれどユズと言えば不良だ。そして不良と言えば、テレビドラマとかニュース特番で見る方々しか俺は知らない。
少し前にやってて夢中になって見ていた学園ドラマでは、親と不仲で家を追い出された不良さんが生徒役で出ていた。
一概にそうだといい切れないのも頭ではわかっていても、ユズもそうなのかと一瞬思ってしまったのだ。
そんな俺の思考さえも読んだように説明してくれた事が、更に俺を情けなくさせた。
ゆっくりとした歩調に合わせて流れて行く景色は、この寒さの割に賑わいが増して行く。
高校に近いとは聞いていたけれど、ユズの家は駅にも程近い場所にあるみたいだ。
ロータリーを越えた所にはデパートや飲食街、雑貨屋やショップなども立ち並んでいて、休日だからか若い人の姿が目立つ。
恐らく自分とも同じ年代なのだろうけど、今一若い人達の中に入って行く勇気のない俺は尻込みしていた。そんな情けない俺に気付いたユズが、含み笑いを零してまた手を引く。
「腰引けてる」
「だ、だって…何か俺場違いじゃない…?気のせいかもしれないけど、こっち見てる人と目が合うよ…?」
「気のせいじゃねぇよ。見られてるし」
あっけらかんと言ってのけるユズの横で、俺は頭を抱えたくなった。現に片手を繋がれていなかったら抱えて蹲っていただろう。
それくらい、俺達に向けられる視線の数は多かった。
チラチラと横目で見る人も居れば、連れたってガン見しながら小声で囁き合う人もいる。
そのどれもが俺の苦手な若い人達だったから余計にいたたまれない。
「な、なんで…」
「さぁ?」
くくく、と笑うユズは原因がわかっているのだろう。
面白そうに繋いだ手を強く握り込んで、気分良さそうに歩いている。
見られるのが気持ちいいんだろうか?
もしかしたら、俺みたいなのが隣にいる事でうまくユズの格好よさが引き立っているのかもしれない。
そう考えるとやけに凹んだ。
「もうヤダよ…」
「はは、んな泣きそうな顔すんな。皆ヒナが綺麗だから見てんだよ」
「そんなフォローいらないよ…」
「嘘じゃねぇって。…あ、ヒナ、あそこ行くぞ」
ルンルンと今にもスキップしそうな勢いでユズが指したのは一件の雑貨屋さんだった。
輸入物を扱う店なのか、日本ではあまり見られない奇抜なデザインの商品がごっちゃりと並んでいる。
店に入った瞬間の嗅ぎ慣れない匂いに少し面くらいながら、初めて入る場所を俺はキョロキョロと見回した。
「初めて?」
「うん…一人じゃ入る理由ないし…あんまり小物とかこだわらない質だから」
「ふぅん」
それはそうといつまで手を繋いでるんだと我に返った俺は、棚に並んだ電気スタンドを眺めるユズと手を交互に見て。ゆらゆらと揺すってみた。
「どした?」
「いや…今更だけど男二人で手を繋ぐってどうなのかなって」
「あ?普通だろ」
「え!そうなの?」
「そうそう。だから気にすんな」
当たり前だとまた視線をスタンドに戻すユズに一つ頷いて、俺もそちらを見遣った。
友達付き合いがよくわからない俺には新事実だ。でも何だか、ユズと友達みたいな事をしている事実が嬉しい。
だから俺は気付かなかった。
「やべ、かわい」
そう言ってほくそ笑むユズが居た事に。
「電気スタンド欲しいの?」
「んー、んー…枕元に置いてたら雰囲気出ねぇ?」
「どんな雰囲気を出したいの?」
「いい雰囲気」
「うわぁ、全くわかんないや」
難しそうな顔で、細かく刺繍された布で覆われている小さなものを手に取ったユズは、電球をくりくりとまわして外し、天井の蛍光灯に透かして色を見ている。
仮にも商品なのに、ユズはやっぱりマイペースだ。
俺は店員さんに怒られやしないかと内心ビクつきながら辺りを伺っていた。
「白か…このデザインで暖色の奴がいいんだけどなぁ」
「ないの?」
「ねぇな。じゃーいらね。お、ヒナ」
「なにー?」
あっさりと電気スタンドを棚に戻したユズが次に目を留めたのは、テーブルに並べられた装飾品だった。