芸術の秋とはよく言ったもので、この時期になると学校での行事がここぞとばかりに詰め込まれていく。
まだまだ暑い十月の陽射しの中ダラダラと体育大会を終えて、そうしたら急いで文化祭の準備だ。

クラスで何をするか、当番はどうするか、当日の注意点などなど、一年生の時よりかはまぁ、スムーズに計画が進んで。

目まぐるしいと思う。
時間が経つのが早く感じるのは単に忙しいからなのか、それとも名残惜しく思っているからなのか、定かではない。

ただ一つだけ、どうしようもなく不変であってほしくて、それなのに変化をも求める事。

「先輩、準備どうですか?」
「どうも何も、張り切っちゃって怒られたし」
「先輩のセンス、ピカソ並ですもんね」
「だしょ!キミはわかってくれるって思ってたんだー」

手を繋いだ。
一度だけ、キスした。

繰り返し訪れる日々の中で、それは変えようのない事実であり過去だ。
俺の中で綺麗な思い出へと移動しつつあるそれからは、確かに随分と時間が流れた。

この曖昧な、掴み所のない浮遊感を味わう関係が続いてほしい。
先に進むという希望も実際うまれてはいるが、俺はまだ、このままでいいと漠然と思っていた。

本当はただ、怯えているだけだ。
何か一つでも変わってしまえばその先、俺の隣にこの人が居なくなっているかもしれないと、思うから。

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学校中が文化祭ムードに浮かされ、迫る当日の為嫌でもテンションはうなぎ登り。いつもはガラリとした廊下さえも既にチラシが所狭しと貼付けられていて賑やかだ。
でも俺はこんなカラフルさよりも、赤いハートの方がずっとずっと恋しいと、毎日その場所を通る度に思う。

教室も例外ではなく、片付け切れない小道具がちんまりごっちゃりと後ろの方に積み上げられている光景は、何だか笑いを誘った。

「先輩のとこは何するんですか?」
「ふっつーの喫茶店。捻りがないよねー」
「高校ですからね」
「もー、キミはモラリストの塊だよね」
「…そうでもないですよ?」

先輩が言うモラルが俺の考えるモラルと同じ意味を持つならば、それは俺に当て嵌まらないのだと反論した。

目を丸くして首を傾げる先輩を、最近可愛いなと思うようになった。それだけじゃない、手の温度に心臓は忙しなく動くようになったし、春から変わらない自分の居場所に、奇跡を今更感じていたり、するんだ。
あなたが好きだということ。それは明らかな異質を示す。
先輩に向けてそれを言葉にしたことはないけれど。

「クレイジーデビュー?」
「もうとっくに」

おめでとうと拍手する暇があったら手を繋いでくださいよ、と言えば、この人はどんな表情を俺に見せてくれるのだろうか。