名前と年齢、クラス。
見た目からわかる事、それから、原色が好きで中途半端な事が嫌い。
そんな事を知った。

身長体重誕生日、家族構成に携帯の番号、それこそ恋愛観など、まあ割と大切なんじゃないかと思う事は知らないまま。

けれどそんな俺達にも平等に、ミンミンゼミが絶好調求愛中、うだるような暑い夏がやってきた。
不思議な事に、未だ恋人という関係を保ちながら。

「帰ろ」
「はい」

周りの目を気にしない先輩につられて、校内で手を繋ぐのにも慣れた。今まで他校の女子を見て鬱陶しいなと思っていたはずの鞄の飾りも、どこか可愛いと思えてしまうようになった。

友達とは言えない近さで、恋人とも言い切れない遠さを保ったまんま。
少しずつ自分が先輩に合わせて変わっていく自覚はあるけれど、先輩は、出会った日のまんまの印象だった。

それが寂しいと思うような感情はまだ、そこまで成長していない。
けれど、確かに生まれているのは事実なのだろうと、最近毎夜考えていた。

勢いだけのスタートだったし、そもそも俺達は同性だ。そんな事はわかってる。誰に言われるまでもなく。

平たく言えば、リアルに何もうまれない関係なのだ。

「あ、この前言ってた映画のDVD借りたんだけど見る?」
「見たいです。この前ってゆうか、昨日ですよ。先輩早いですね」
「思い立ったが吉日ってゆーじゃん」
「そうですね」

本当は今日、宿題が溜まっていて帰らなきゃいけないんだけど。
着実に、先輩を優先してしまう程度に、俺は道を踏み外していた。

駅まででさよならの道程も、その先に招待されたというだけで憂鬱な要素が無くなる。
まさか電車の中でもこの結んだ手はそのままなのだろうかと一瞬頭を過ぎったが、まあいいかと思ってしまう事がより自分を追い込んでいるに違いないと苦く笑った。

「あっついなぁ」
「夏ですもんね」
「キミはホント真面目な事しか言わないね」
「そうですか?」
「そうですよ?」

真面目な事しか言わないからおもしろくない、と含めたのだろうか。
例えそうだったとしても、その時の俺に気付くだけの余裕はなかった。

ただ、単純に嬉しかったのだ。
先輩の口から、俺を形容する要素が一つでも出て来た事が。

俺が先輩との会話で先輩を知る何分の一でもいい、むしろ一つだけでもいい。

俺という存在のカケラが、この人の歴史に刻まれていくのなら。

「手汗やばいよね」
「滑りそうですもんね」
「じゃ、離そっか」
「それもありですかね」

そんな事を言いながら、俺達は汗でぬるつくお互いの手を離す事はなかった。