七夕(智×寛)



愛しいダァリンがどこからか持って帰って来た昔話の他力本願アイテム。
それでも俺には、言えない気持ちを伝える素晴らしい媒体に見えた。


【見えない願い】



ガサガサと窓際に設置した笹が揺れる。開けた窓からは夜風が室内に吹き込んで、俺と智宏の間をすり抜けた。

「寛哉書けた?」
「書けたぁ。ちょ! 見ちゃダメじゃん!」
「もう見えた」
「さいってぇ」

笹と一緒にゲットしてきたらしい短冊に願い事を書く。高校生の男子二人、何やってんのと思わなくもない。

けれどその馬鹿馬鹿しさとは裏腹に、始めてしまえば案外楽しくて俺達は下らない願い事を何枚も書いた。

「字が綺麗になりたい」
「低血圧から解放されたいー」
「サンタが毎日来ますように!」
「明日の朝ご飯はシリアルがいいなぁ」

叶ったらまぁ嬉しいけれど、別に叶わなくとも何とも思わないような、そんな小さな我が儘を書いては見せ合い、小さな笹に所狭しと飾っていく。
恐らく彦星と織り姫ってやつも、もしこの笹が見えたなら呆れてモノも言えないだろう。

「一年に一回しか会えないとか超拷問だろうなぁ」

飾る為に笹の前にしゃがんだまま、智宏はポツリと零した。
視線は色とりどりの短冊。
そう?と返して、俺は背後の机で白い短冊と白い色鉛筆を手に取った。

「だってさ、一年一回だったら超溜まる。一晩だけじゃ満足出来ないよ普通」
「バッカじゃないの? そんなん考えるの、智宏くらいだから」
「そりゃ俺絶倫だから? 寛哉相手ならひたすらぼ」
「わざわざ言わなくていいからっ!」

放っておくとすぐエロ事へ脱線する奴を黙らせて、白い短冊を渡す。
飾って。そう言うと智宏は不思議そうに首を傾げた。

「何も書いてないよん?」
「いいの。いいから飾ってってば。一番上だかんね」
「はいはーい」

大人しく短冊を笹の一番上、まるでツリーの星飾りのようにくくりつけた智宏は、満足そうに笑んで俺を引き寄せた。
不格好な白い短冊。天の川を渡る二人が見てくれますように。思ってもない事を一応願う。

「でもさー」
「ん?」

ごそごそ動いて俺を抱き込んだ智宏は、肩に顎を乗せてニヘラと笑う。

「俺なら年一回なんて我慢しないね。絶対毎日会いに行くよ。格好良くない?」
「格好良さ競ってどーすんのさぁ。ま、年一回はキツいけどねぇ」
「毎日会おうねー!」

ぎゅうって腕に力がこもる。
擦り寄せられた彼の鼻先は暖かかった。

俺は一人窓から空を見上げる。
今日の天気は土砂降りの雨だった。


(俺の願いは俺しか知らなくていい。きっと天の二人は、人の願いを見る余裕なんて有りはしないだろうから)

END


二年前のメルマガで配信した七夕小話。
奇しくも、旧暦の七夕付近で、葵に送ってくださった方がいました。

葵に起きた暖かい奇跡です。
この幸せな気持ちが、皆様と、智宏と寛哉にも伝わりますように。

 

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