5*/END


それは、とんでもなく底意地が悪く、加虐的な性癖を持つ男の本性だった。

「――まあ、挿れるがな」
「ぃああっ、あ……ッ」

未開の地を暴く切っ先が、俺の中で凶悪な形のままビクンと跳ねる。
ぬるりとした何かを、ゆっくりと飲みこんで包んで、食んで締めつけた。覆いかぶさってきて俺の首元に顔を埋めている男は、そこで心地よさそうに溜め息を吐く。

「すごいな。ぐっぽり入った。どこもかしこも締めつけて、気持ちがいい。お前は……ああ、お前もよかったのか」

男が上半身を少し浮かすと、腹同士の間からニチャリとねばついた音がする。見なくとも、それが何かはわかっていた。俺の出した精液だ。

だから駄目になる、と言ったのに。
彼の長さに慣れてきた頃から、少しずつ奥で感じ始めていたことを、今まで言わずにいた努力が水の泡だ。これで次回から執拗に奥を狙われるのはわかりきっている。俺にばかり不利なイブすぎないだろうか。

文句を言いたいのに、またもや息をするだけで精一杯だ。
そんな俺を見ていた三浦さんは、体重を乗せるように腰を押しつけてぐずりぐずりと捏ね回し始めた。

「……ッ、……!」
「よさそうだ。勃ちも甘いし、今日はこのままドライでイケるかもしれないな」
「む……、ッ、……り」
「もう一度見せてほしいんだがな……初めてお前を連れこんだ夜、見せてくれただろう?」

ごりごり、ごりごり、話しながらも男の責め苦はやまない。大体、あの文化祭の夜だって、彼が勝手におっぱじめて俺が酷い目にあっただけだ。決して見せたくて見せたわけではない。

だが、男のせいであの夜のとんでもない快楽を脳が思い起こしてしまった。勝手に腰が揺れ、女のように鼻にかかった喘ぎがこぼれる。

「たま、き……ッ」
「ん? どうした、十夜」
「も、イって、出して、っ無理、つらい、ぃ」
「だったら動かないから、もう少し俺を可愛がってくれ。わかるだろう?」
「ふっ、うう、う」

ミチミチにその全てを挿入したまま、三浦さんは俺の返事なんて聞きもせず指先で乳首を引っかく。例のごとく時間をかけてそこを俺の性感帯に変えた男のせいで、少しの愛撫でも愉悦が下半身へ直結していった。

「ぅぁっあ、んぅ」
「堪らないな……中がグニグニ動く。ああ、気持ちがいい、十夜……」
「ふぁあう、んんッ」

優しげな声で、優しいトーンで口を動かしているが、男の目に理性はない。衝動的に食らわれるときのような乱暴さがない分、こういうときの三浦さんは、しつこくて質が悪いのだ。

一切奥を揺さぶらないまま乳首を左右代わる代わる弄られて、蠢く中の感触を楽しまれる。俺にとってこれは苦痛の時間だが、遅漏気味の彼に突き上げられ続ければ内側が破けてしまいそうな気がするから、やめてくれともいえない。
必死で引きつる喉へ唾液を嚥下し、与えられる悦楽が過ぎ去るのを待つ。
男は俺がそろそろ本格的に泣く寸前になって、漸く満足そうに乳首から指を離した。

「そろそろ……俺もイキそうだ」

やっとかよこの遅漏野郎。
そう言ってやりたいが、俺は黙ったまま頷き返す。もう後何度か揺すられたら吐精してしまいそうな予感で、ヘタなことができないのだ。

「も、イって……マジで、無理」
「そうだな、入口から奥まで擦るが、もう少し頑張れ」
「ん、んぅ」

無駄に逞しい身体が倒れこんできて、俺の頭を腕で囲うように閉じこめる。俺は次にくる衝撃に備え、奥歯をぐっと噛みしめ男の背中を強く抱き返した。

「ッ――…」

ズドンと大きく突き上げられて、拘束された身体が勝手に逃げようと足掻き出す。しかし三浦さんは俺の耳元で荒い息を繰り返し、暴れる身体を拘束したままズンズンと肉棒を突き刺した。

「んはっ、はっう、うああ、っあ」
「イイ……ああ、もうイクぞ、出すぞ、十夜っ」
「お、れもイ、くぅ、っ……」

優しさのカケラもない律動に誘われ、連れ出されるままに絶頂感が襲いくる。男もようやっと達し、獣のような唸り声で俺の首筋を湿らせた。

「大丈夫か? 十……ドライでイケたな?」
「ぜんっぜん、だいじょうぶじゃ、ないし」
「死にそうな声を出すな。興奮する」

どんな外道だよ。口から飛び出しかけた悪口を寸でのところで食道へ押しこみ、ずるりと抜けていく性器のもよおす快感に耐える。無茶ばかりさせられて半勃ちだった性器からは先走りだけが滲み、本当に射精できていなかった。

「出させてやりたいところだが……これ以上すると、本当に明日に響くな」

三浦さんは気を遣っているのか、隣へ横たわって腕枕をしてくる。相変わらず固い腕だ。寝心地はよくない。

だが俺は未だに、この固い腕枕が一番心地いいのだから終わっている自覚はある。
女性には満足に挿入できた例がない形をしていて、加えて遅漏気味でサドッ気があって、密かに性欲も強いこの男が本当に一度でやめただなんて、うすら寒くて鳥肌が立ちそうだ。

なんていうのは、多分建前。

「……今日」
「ん?」
「会えると、思ってなかったんで。プレゼントとか、用意してないんですよ」

だから、と前置いて、無体を働かれて重く、気怠い身体を起こす。そのまま目を丸くする男へ馬乗りになれば、彼が紅茶色の美味しそうな瞳をやんわりと細め苦笑した。

「これはこれは……プレゼントか?」
「そうです。嬉しいでしょ。これで我慢してくださいね」
「俺も用意できていないんだが」
「はあ?」

ずっぽりと男をハメられていたせいで、まだ少しポッカリと口を開けた後孔で、萎えていない三浦さんの男性器を擦る。息を詰める男の頬をつまみ、俺は彼の鼻先に歯を立てた。

「くれたでしょ」
「何を?」

腰を浮かし、一気に内側へ男を招き入れた。
嬌声と衝撃を殺し、閉じてしまいそうな膝をわざと広げる。そうすれば男の視線が繋がった部分を凝視するのだから、素直で大変よろしい。

「一緒に、いる時間、くれたでしょ」
「……本当に、どうしてやろうか。可愛いことばかり言う」
「そんな俺が好きなくせに」
「ああ、好きだ」

腹筋を使って上半身を起こした三浦さんが、俺の身体を力いっぱいに抱きしめる。
少し苦しいくらいの抱擁が何故か可愛く思え、俺は笑いながら「会えて嬉しかった」と、本当に小さな声で本音を呟いた。

クリスマスもイブも、せっせとセックスするための理由を提供してくれている。だからそれを、便乗して最大限に活用したって誰に文句を言われる筋合いはないのだ。

(一回も十回も同じですよ)

END

(メリークリマス!)

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