それきり背中に顔を埋めて言葉を発さんくなったヒロを仕方なく放置しておく事にした。一番後ろの席に並んで座り、ヒロも無理矢理座らせる。今度は左半身にくっつかれたけどな。
その内立ち直るやろ。

「一年生の部屋には空きがなかったので、彼には寮長と相部屋になっていただいたんですよ。新しい部屋もあるにはあるんですが…編入生の場合は誰かと同じ部屋の方が早く生活に慣れますし」
「ふぅん…俺要と同じ部屋でよかったー」

そこまでヒロが参る位危険な人物には見えへんかったけど…俺は要でよかったと思う。タメの方が気兼ねないし。
よしよしと要に撫でられて和んでいると、ふ、と館内が静かになった。

「ただ今より、明日の新入生歓迎会の説明会を行います」

わぁぁぁぁぁぁ!!!と、ドドメ色の歓声が沸き起こる。
今回も俺の耳は要の手で塞がれて危機を回避した。
舞台の上には兄ちゃんが立っていて、マイク片手に笑っている。
キャアキャアと騒ぐ奴らには全くわからんやろうけど、あの笑い方は絶対内心キレてると思う。

「……機嫌悪そう」
「要もそう思う?」
「……うるさすぎ」

しかも何故か声が甲高いってゆうな。男らしく野太い歓声も寒気するけど、高めの歓声は更に聞くに堪えん。
蒼空は間に合わんかったんかダメージを受けたらしく、圭に頭を抱きすくめられて慰められとった。
圭……割とやるやん。もっと奥手タイプかと思た…。


「そろそろ…静かにしてくんないかなぁ…?」

壇上の兄ちゃんがやけに優しい声色でそう言った瞬間、ぞぞぞっと悪寒が走った。
一般生徒も少しは空気読んだんか、さっきまでの歓声が嘘のように静まり返る。

「ありがとう。それじゃあ会長から挨拶位もらおうか」

静かな中でサラリとそう言った言葉に、生徒が息を呑む。
そらもう、ゴクリと。
きっと今にも逸る気持ちのままに叫びたいんやろう。…すごいなぁ。

兄ちゃんが舞台袖へと下がり、代わりに愁が堂々と出て来る。
パタリ、と一人の生徒が倒れ、配置についてた教師が慣れたようにその生徒を運び出した。

それを皮切りに更に数人倒れたけど、俺はその反応があまりに異様で、口をだらしなく開いたままツッコミすら出来んかった。
マジか。

「…堪え性がねぇな。後で誰か説明しといてやれ」

眉間な皺を寄せたままの不機嫌そうな顔で、愁が講堂内を見回す。
それをウットリと見つめる多数の視線はジリジリと熱く、目からビームでも出てんのちゃうかって位に気温が上がったような気がした。

「いよいよ明日が歓迎会当日だ。今年は今までとは違うものを目指した。たかがゲーム、されどゲーム。ナメてかかると怪我すると思っとけ。それと、」

そこで一旦言葉を切った愁は、冷たい視線のまま生徒を見下ろした。

威圧感とカリスマ性をもって、王者となる。ゼロの総長として幾度となく見てきた頂点の顔。
ブルリと背筋が震えて、いつものように見惚れてしまう自分を止める気にならんかった。

だってすごい。
俺がどんだけ背伸びしても持ち得んものを、あいつは使いこなしとう。それはただ純粋に羨ましく、そして俺に尊敬の念を抱かせる。

「規律を乱す者が現れた場合、俺達生徒会と風紀委員会は、総力を挙げてしっかりと"お仕置き"してやる。覚えとけ」

最後まで一ミリたりとも表情筋をうごかす事なくマイクを置いた愁が、颯爽と袖へと帰って行く。
やけに張り詰めた緊張感がそれと同時に緩み、生徒達はこぞって肩の力を抜くように溜め息を吐いた。

「愁機嫌悪かったん?」

今みたいな愁もめっちゃカッコエエなて思うけど、今日はいつにも増して視線が冷たかった気がする。
チームの仲間を見遣る視線はもうちょっと、優しかったような。

「………学校では、いつもあぁ」
「へぇ、そうなん…」
「………………睨みの帝王、って言われてる」

嫌な二つ名の帝王様やな。

「あの人は普段から誰にでも愛想良く出来る程、器用じゃないんですよ。染谷君ならわかるのでは?」

小さな声で圭がこちらに笑いかける。その台詞に少し、もやもやと心の中が曇っていく気がした。

そんな事も知らんのか、って、言われたみたいで。

いや別に愁の事何でも知っとう訳ちゃうし知らん事のが絶対多いし…あ、でも何かそれ悔し………………何で悔しいねんアホか俺!
意味わからん!

「……大丈夫?」
「あ、うん、何もないで」

降って湧いたような奇っ怪な感情に危機を感じた俺は、その事を丸投げして要に笑いかけた。
蓋を閉じればまた元通り、そう願って。

舞台上に目を向けると、今度は我が女神こと翔さんと、見る限りはストイック代表喋らせると腹の立つ上目線、なのに何故かヤラれキャラな一之瀬さんが袖から出て来た。
小さく上がる高い猫撫で声と、野太い声混じりの溜め息が静かな講堂にひっそりと広がる。

「では本題、明日の説明を僕達が担当します。今年度のゲームは…
鬼ごっこ、です」

お、にごっこ?

翔さんの言い放った子供の定番の遊び名を聞いて、講堂内の生徒が皆目をゴマにした。

じゃんけんで鬼を決め、10数える内に逃げろー、おー!あっタッチされた!じゃあ俺も今から鬼やな!
ってゆう、ミイラ取りがミイラになる、あの鬼ごっこ?

ポカンと自分に集まる視線を気持ち良さそうに受けて、翔さんは綺麗に笑った。

「勿論ただの鬼ごっこじゃツマラナイからね。今回は色々と特別ルールを作らせてもらったんだ、僕が」

一之瀬さんが背後のスクリーンにパッと映し出された学園の地図を示した。

「一般寮、校舎特別塔、教員寮…それから校舎内の各教室。これらは鍵をかけて立入禁止区域とする。ちなみに何らかの方法で入った瞬間に"お仕置き部屋"行きだ」
「その他はどこへ行ってもいいよ」
「但し、一カ所に三分以上留まった時点で失格となる。当日はこれをつけてもらう。発信機付きだ」

そう言って掲げた手の平から、細長い黒リボンが垂れ下がる。
その先には恐らく発信機らしきものが付いていた。

「外すのもダメだよ?どんなとは言わないけど…痛い目に合うからね」

ふふ、と翔さんが笑うだけで、外したら相当後悔するんやろうなと予想出来た。な、なんかこれって…

「そして、逃走範囲の全てに色々なトラップを施した。引っ掛かったらゲームオーバー」
「題して、バトルロワイヤル鬼ごっこ、だよ」

やっぱりーぃ



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