▽ バレンタインとは何ぞや
「日頃お世話になってるから、お礼! てことでこれからも一緒に頑張って下さい」
呼び止められたかと思ったら、いきなりお礼だとかで、深々と頭を下げながら小さな包みを差し出された。……突然のことで、まだ良く分かっていないアルティナは、リタの突然の行動に内心首を傾げていた。
そして、導き出された答えと言えば……
「……勤労感謝の日か? それだったらとっくに過ぎてるぞ」
これである。過ぎた……またはまだまだとも言える記念日の方が出てくるあたり、本人は今日が何の日かどうでも良いらしい。それに加え、相手は天使であり“そういう行事”には全く関心がないため、まさかという思いがあるのかもしれない。
「えっ、いや違うよバレンタインだよ!!」
「…………バレンタイン?」
バレンタインとは何ぞや……と言うほどアルティナは世間に疎くない。というか天使やってた目の前の少女すら知っているのだ。人間やってる自分が知らないはずがない。
ふと宿のカウンターから視線を感じ、そちらに目を向けると何人かギャラリーがいた。見守る……というより見物客の方が多そうで、アルティナが振り返ると、あたかも「見てないし聞いてもいませんよ」とでも言うように各自の作業に戻る。何とも小憎たらしい。もちろん、その中にはルイーダやカレンも含まれている。
「……お前がそれ知ってるとは意外だ」
まぁ、大方ルイーダやカレンにでも唆されたのだろうが。それくらいの予想はつく。
「え、そう? お師匠が教えてくれたんだけど」
……いろいろ意外だ。というか、それは師匠が弟子に教えることなのか?
天使界が少し分からなくなったアルティナであった。
「あ、でも確かに言いにくそうではあったような……どうしてだろう」
「……そうか。で、これは本命なのか?」
さらっと結構重要なことを尋ねてみる、と。
「本命、というか……労い?」
真顔ですっとぼけたことを言うリタ。……まぁ、そんなことだろうとは思っていたが。
見守っていたギャラリーがズッコケたのは言うまでもない。
「そりゃ残念だ。だがまぁ、ありがたく貰っておく」
「? ……うん」
よくは分かってないが何かつっかかりを覚えたのか、リタは首を傾げながら、包みを受け取り過ぎ去るアルティナを見送った。去り際に見せた鋭い笑みにどきりとした、が。
(残念……て言ってた。残念?)
何が?
「ねぇ、リッカ」
献立のリストを眺めながらもリタとアルティナのやり取りが気になっていたリッカは、突然話を振られて思いっきり肩を揺らした。しかし、アルティナの残した謎の言葉に気を取られたリタがそれに気付くことはない。
「男の人って、本命?……を欲しがるものなの?」
バレンタインという日を知っていても、内容まではしっかり把握しているわけではなかったリタは、一番近くにいたリッカに尋ねてみたのだが。
「え? うーん……それは、まぁ……貰えたら嬉しいのかな、きっと……多分」
若干人選ミスであった。
そういうものなのかと納得しかけたリタであったが……さすがに見かねたルイーダが声をかけた。
「リタ、本命って意味教えてあげましょうか?」
「えっ、本当ですか?」
すると、ルイーダはにっこり笑ってリタを手招きした。素直に従うリタ。内緒話のように耳元に顔を寄せたルイーダが何かを言う。
その内容に、リタが顔がみるみる内に真っ赤になったのは、まさにその次の瞬間であった。
終わり
Brillanteの冬生さんより、バレンタインSSです(^^)
恋愛に関してはとことん鈍いリタちゃんが、今回もやってくれましたね(笑)
私としては、ホワイトデーにアルティナ君が何をするのかが既に気になります←
さりげなく本命欲しかったアピールをするところに等身大アルティナ君を見出だしました←
今回は天恵物語の方を頂きましたが、別のシリーズにもSSがございますので、気になった方は是非読んでみてください(^^)
冬生さん、素敵なお話をありがとうございました!!
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