彼の背中






さて、垂れた虎耳と項垂れた尻尾が見えてきそうなこの背中をどうしてやろうか。





「先輩、いい加減機嫌直して下さいよ」
二人揃ってオフの休日の朝、同じベットで目が覚めた。
お互い最近忙しく翌朝まで共に過ごせる事すら久しぶり、心ゆくまで二人きりを満喫できるのは何週間ぶりか。
一応、と頭につくが恋人という間柄。本来なら腕枕で目覚め甘い朝の会話を…というのは言いすぎだが多少の甘い展開は当然だと思う。
なのにこのオジサンは起きた途端にむくれっ面で壁とにらめっこしている。
「…」
声をかけても全く反応しない。
「一体何をそこまで怒っているのですか?」





目覚めたのはバーナビーの方が早かった。しばらく寝顔を眺めていたが、昨日の激しい運動をした後だ。目覚めたオジサンはきっとお腹を減らしているだろうとキッチンで朝食の下準備をした後、一足先にシャワーを浴びた。
昨夜は二人の体力の限界に挑戦するように激しかった。どうせなら一緒に入って昨日のケアとあわよくばもう一度…と思わなくもなかったが、老体には少々酷だろう。
気遣いが出来るだけの余裕が生まれたという事は、自分の体もそれなりに満足してるという事だろうし。
このまま甘やかすのも悪くない…と、思っていたのだが
「………」
戻ったベットの上でこちらを向いて俯き気味に座る上半身裸の虎徹。脱ぎ散らかした服もそのままになっているのできっと下半身も裸なのだろう。さっきまで被っていたシーツをドレスのように巻きつけている。
流石に素っ裸は寒いのか、それとも裸で胡坐という格好が間抜けだからか。
朝食は何がいいか尋ねながら、コーヒーを入れる。気遣いの声をかけながら虎徹の分をサイドテーブルに置いた所で、起きてから一度も反応がない事に不審を抱いた。
まさか座ったまま眠ってるのか?と顔を覗きこむ。
目が合うとギロッと睨まれ、即座に視線をそらされた。そして体ごと壁の方を向く。
それから約10分。
いれたコーヒーがすっかり冷めてしまったにも関わらず一向に無反応が続く。
このオジサンも大概意地っ張りだからな…へそを曲げると長い。
「朝ごはん和食の方がよかったですか?和食の材料、なんなら買ってきましょうか?」
「…」
お腹は減ってるはずなのに、また無反応。
「起こさなかった事を怒ってるんですか?でも今日は休みでしょう。ゆっくりしようって、昨夜も言ってましたし」
ずっと無言、無反応を貫き続けてる。僕もそれほど気が長い性格ではないのだけれど。
「昨日はあんなにいい声で鳴いてくれたのに。気持ちよかったでしょう?なんでそんなに不機嫌なんですか」
少しだけ肩が動いた。
どうも怒りの原因は昨夜のようだ。何が怒りの原因かはっきりさせる為にさらに言葉を続ける。
「もしかして、例の玩具が原因ですか?別に使うのは初めてじゃないでしょう、しかも一番細い奴だけたったし。それとも途中縛ってイかせてあげなかった事ですか?だって先輩、イくとすぐ疲れて寝ちゃうでしょう。先に寝られるのは勘弁ですし。その分後でたっぷりイかしてあげたじゃないですか。もう死んじゃう、って泣きだすぐらい。それとも…」
「…っ全部だよ。全部っっ!」
やけくその様な怒鳴り声。
ようやく反応した。
途端にしまった!とでもいうような渋面を作ってまた背中を見せてしまったが、これで十分。原因が判れば対応のしようもある。
要するに彼は昨日の行き過ぎたプレイにお怒りなのだ。おそらく羞恥心も手伝っているのだろう。思い出したのか耳がほんのりと赤いのが見て取れた。
しかし、それにはバーナビーも反論したい。
昨日は虎徹も結構積極的だったのだから。ベットの上で自分からキスをしてきたのも虎徹からだし、珍しく自分からバーナビーのものを舐めるというサービスもしてくれた。普段なら交換条件でもたたきつけてやらないと嫌でもやらないのに。頬を撫でで褒めてやると本当に嬉しそう、幸せそうに笑ったあの笑みは何だったのか…まぁ、そのおかげでその後一切の加減が出来なくなったというのも事実ではあるが。
彼も寂しかったのだ。ここ最近の忙しさに。
…だというのに自分ばかりが責められるこの状況はあまり面白いものではない。
「先輩」
これは最終警告だ、という意味合いを込めて普段よりも低い声で呼びかける。
流石パートナー。一声でその意図を察したのかこちらをうかがうような気配。恐る恐る振り返ってこちらの様子を確かめたいのを意地で我慢してるようだ。
「あんまり可愛くない態度を取ってると、こちらも考えがありますよ?」キシリ、とベットのスプリングのわずかな軋みが静かな室内に鳴り響く。
片膝をベットに乗せるとその振動が伝わったのか虎徹の肩が揺れる。ピクリと小さく。しかし絶対に振り向くか、逃げるものかと無視を決め込む。
それも今のうちです。
わざと恐怖を煽る様にゆっくりとベットの上に乗る。バーナビーの身長に合わせたキングサイズである為、ヘッドボードの方に座る虎徹の背中とはまだ距離がある。
一歩。また一歩。
四つん這いに近い形でのそりのそりと近づく姿を虎徹が見たのなら、きっとお前の方が虎のようだと思っただろう。そんな、大型の肉食獣を思わせる動き。そして獲物を見る瞳。
ギシリと一際大きな音を立てて、バーナビーの動きがぴたりと止まる。
伸ばした手の先が虎徹の頬に届くかという程の距離だ。少しでも動けば確実に揺れる空気が伝わるだろう。
虎徹の肩に緊張が走る。この時点ですでに意地を張りすぎたのではないかという後悔が彼の胸には芽生え始めていた。
「先輩」
先ほどの低い声とは違う呼び声。ややテレビ向けの作られた明るい声が、虎徹に手遅れを知らせた。




「先輩の背中って好きですよ」
声とともに肩甲骨に指が触れる。シャワーを浴びてから10分以上。コーヒーの温もりが移ったのかほんの少し温かく感じる。
浅黒く日に焼けた肌は細く無駄が無い。日常的に使い込まれた体だ。
「流石に10年間現役のヒーローを続けてきただけはあるな、って思います」
指は一瞬で離す。
虎徹はそれに安心すると同時に少しの残念に思ったのだろうか。これだけ?という風に恐る恐る振り返るそぶりを見せた。
まだこれからですよ、とすかさずバーナビーはまた手を伸ばす。
「姿勢もいいですよね。まっすぐ伸びた背骨」
スッと首の付け根から腰まで一直線に指を添わす。
ゾクゾクッと虎徹の背中が震えると同時に息をのむ音が聞こえた。そして今度は振り返れなくなる。金縛りのように動けなくなる。
虎徹は背筋を触られるはあまり得意ではない。向かい合って抱き合う時に戯れに撫でると可愛い反応をしてくれるのをバーナビーはよく知っていた。
何度か上下に往復を繰り返すとこそばゆいのか感じるのかその両方か、息が荒くなり体の震えが大きくなる。
素直な反応に笑みが深くなっていくことをバーナビーは自覚し、攻める位置を変えた。
背中の真ん中。肉の薄さを感じさせる骨の堅さに指を添わせる。
「均等な肋骨…でもちょっと痩せすぎですよ?多少筋肉に埋もれてますが…ほら、こうして触るとよく判る」
一本一本形をなぞる様に。決して強くは触っていない。むしろ触れるか触れないかの柔らかさ。
それにビクリと反応するほど敏感になっている。本当、感度だけはいいな、このオジサンは。
「肩甲骨は羽の跡…でしたっけ?流石は剛腕自慢」
その厚みから能力を使用しなくてもきっといい働きをしてくれるのだろう筋肉に指を押し込め独特の弾力を楽しむ。そのまま移動させ二の腕を軽く揉み肩のラインを沿わせ、また首の付け根に戻る指。
そこで一気に体の距離を詰める。
先ほど触った肋骨に胸を当てるように。背骨に顎を置き、首の後ろに唇。喉にかけるように前に伸ばした腕の先。
「首筋。鎖骨のくぼみに汗がたまるのを見てると、思い出しませんか?」
グリッ、とここだけ強く、抉りとる様に鎖骨に指をあてる。爪は立てなかったので痛みは少ないだろうが息は詰まるだろう。苦しげな喘ぎ声が漏れる。
「そしてこの尾骨の下が…」
体を密着させてゆっくりと焦らす様に背骨の先、纏うシーツの奥を指先に暗示させながら撫でる。
話すたびに息が首にかかるのか襟足が揺れる。耳はもう茹であがった様に真っ赤だ。
首を伸ばし、舌で襟足をかき分け、首裏に歯を立てる。
「っ……、バー、ニーッ…っ!」
虎徹の体を知り尽くしたバーナビー相手に意地を張り通しても勝ち目は無い。
「ねぇ、先輩」
もう撫であげなくっても虎徹の震えは止まらない。首をすくめて、ギュッと拳を握りしめて。
あぁ、シーツがしわくちゃだ。
駄目じゃないですか、と窘めるように眦に浮かんだ涙を舐めあげる。
震えはむしろ期待といってもいいかもしれない。
「犯しますよ?」
それは伺いでもなくお願いでもなく。
虎徹はビクリとは一際大きく体を震わせたが、振り向きも咎めもしなかった。
だから、これは同意。


end





(さて、垂れた虎耳と項垂れた尻尾が見えてきそうなこの背中をどうしてやろうか。)








実況中継はある意味基本かと。兎に調教されつくした虎。






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