「ねえ、千鶴。明日桜を見に行かない?」
「え?」

珍しく総司から持ちかけられた突然の提案に、千鶴は目を丸くした。そんな彼女の反応が可愛いなと内心で思いつつ、総司は話を続けた。

「今日買い物に行った時に、ここから少し離れた所に桜が凄く綺麗な場所があるって聞いたんだ。地図も書いてもらったし、折角だからさ」
「行きたいです!お弁当作りますね」
「うん、楽しみにしてるよ」


翌日、支度を済ませた二人は桜が咲いている場所へと出掛けた。二人が住む家からは少し離れた場所ではあったが、思っていたよりも早くそこへ辿り着くことが出来た。

「わあ…!」
「これは…思ってた以上だね」

その場所には、様々な種類の桜が植えられており、そのどれもが今が見頃といったように咲き誇っていた。あまりにも美しい光景に二人は言葉を失い、暫しの間桜から目を離せないでいた。

「総司さん、凄く綺麗ですね」
「そうだね……君が喜んでくれたなら、良かった」
「え?」
「ううん、何でもない。このまま桜眺めてるのも良いけど折角お弁当持って来たんだし、そろそろ食べようよ。僕、お腹空いちゃった」
「あ、そうですね!」

桜の木々が見渡せる場所に腰を下ろし、二人は持ってきた弁当を広げた。桜が綺麗だとか、今日は暖かいだとか――弁当を食べている最中にしたのはそんな他愛のない話ばかりだったが、それでも二人にとっては穏やかで、楽しいひとときだった。

「ご馳走様。美味しかったよ」
「有難うございます」
「ん〜でもお腹いっぱいになったら何だか眠くなってきちゃったな…っと」
「わ、総司さん!何してるんですか!」
「良いじゃない、誰も見てないんだし」
「でも…」
「…千鶴は僕に膝枕なんかしたくない?」
「え、いや、そういう訳では…」
「じゃあ、良いでしょ。少しだけ」
「うっ…」

突然寝転んで千鶴の膝に頭を乗せた総司に千鶴は抵抗したが、総司に上手く言い包められてしまい、結局膝枕をすることになってしまった。恥ずかしさからか頬を染めて少し俯いた千鶴に対し、総司はとても機嫌が良さそうであった。

その時、不意に風が吹いた。その風に乗って桜の花びらが空に舞い――それはまるで吹雪のようだった。

「……あ」
「どうしました?」
「千鶴、ちょっと動かないで…取れた」
「え?」
「唇に花びら、付いてたよ」

千鶴の唇へと手を伸ばし、総司は花びらを一枚取って彼女へと見せた。どうやら先程の風で舞った花びらが千鶴の唇にくっついていたらしい。

「あ、りがとうございます」
「あと、そのまま頭下げて」
「はい…こうですか?」
「そうそう…」

そうして互いの距離が近付くと、総司は千鶴の後頭部に手を回し、そのまま彼女の唇を――奪った。

「――っ!?」
「…顔、真っ赤」
「だ、だって…どうしてこんなことしたんですか!」
「どうしてって…そんなことも分からないの?」
「分からないです!」
「言いたくないんだけど……桜の花びらに嫉妬した。君の唇にいとも簡単に触れるんだもん」
「総司、さん」
「だって…君は僕だけのものなんだから。他の誰にも渡しはしない。それが桜の花びらであってもだよ」

真剣な眼差しで見つめられ、千鶴はそれ以上何も言えなくなる。総司は千鶴の頬に手を添え、再び彼女に口付けをした。

「…千鶴、愛してる。君は?」
「私も、あいしています」
「ずっと、一緒だよ」
「…はい」

約束、と総司が差し出した小指に千鶴が小指を絡め、二人は微笑い合った。そんな彼らを包み込むかのように、穏やかな風が桜の花びらを運んでいた。


桜色の約束



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唇に溶ける様の方に提出させて頂いたものになります。お題が終章後の幸せなお話をとのことでしたので、沖千で花見ネタを書かせて頂きました。この二人には穏やかな時間が訪れてくれれば良いなと思います。企画主の陽乃様、素敵企画に参加させて頂き本当に有難うございました!


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