――俺には決して忘れることの出来ない約束がある。

『あなたを一人にしてごめんね…でもまた会えるから、ぜったいに会えるから…だから信じて。また会える日まで待ってて』

大きな瞳に涙を浮かべた少女が、精一杯思いを伝えてくれている。これは、そう――あいつだ。

あいつと俺は幼馴染で、物心つく前から一緒に過ごしてきた。だけど、ある日突然あいつは俺の前から姿を消した。もう何時のことだったか思い出せない位…いやあいつがいなくなった日のことなど思い出したくもない。

あいつがいなくなってから、俺の世界は一変した。それまで明るかった筈の世界が途端に真っ暗になり、そこで過ごす意味なんて一切感じられなくなった。何となく、取り敢えず生きている――そんな表現が今の俺には相応しいだろう。

同時に希望なんてものは殆ど失ってしまったけれど、ただ一つだけ希望と呼べるものがあるとしたら、それは最後にあいつが残していった言葉だ。また会える、その言葉だけが俺にとって信じることが出来るもので、その言葉の為に俺は何だってしてきた。危ない橋も幾つか渡った。

その甲斐あってか、先日あいつに繋がる情報を漸く手に入れた。手にした者の願いをひとつだけ叶えるという幻の宝石“Tears of the Polester”――裏の世界では有名なその宝石を狙う集団の中に、あいつの名前を聞いた者がいるという。

確証はない。だけど、何年も探し続けてやっと見付けたあいつへの手掛かりを俺は失いたくはなかった。それから俺はTears of the Polesterに関することを調べているうちに――最近結成されたというTears of the Polesterを狙う怪盗集団、Zodiacの存在を知った。どうやらZodiacは現在メンバーを集めているらしい。幸い、俺には医療の知識がある。これを生かせばきっとZodiacに加入出来る、つまりは――あいつへ近付く為の手段を得られるということになるだろう。

俺にもう、迷いはなかった。


それから間もなくして、知り合いの紹介によって俺はZodiacを結成したLibraとAriesと呼ばれる人物と面会することになった。通された部屋の中に入ると、長髪の男が俺の方へ近付いき、口を開いた。

「Zodiacに入りたいというのは、お前か?」
「はい」
「…そうか。俺はLibra、Zodiacのリーダーだ。そっちの男はAries。俺の下でメンバーをまとめる役を担ってくれている」

Ariesと呼ばれた男が俺を見るなり少し驚いたような表情に変わったが、それを無視して俺は話を続けた。

「俺は医療の腕には多少自信があります」
「ほう…それは心強いな」
「あと一つ、宜しいでしょうか」
「何だ」
「俺は自分の目的の為に動きます…誰にも邪魔させない」
「…まあ、良い。役に立ってくれるなら何だって構わないさ」

Libraは一瞬何か言いたげな表情を浮かべたが、すぐに元のどこか諦めを感じているような、そんな表情に戻って、俺に問い掛けてきた。

「お前、星座は?」
「星座?蟹座ですが」
「そうか…それならお前は今日からCancerだ」
「分かりました」


もう、後戻りは出来ない。だけど、それで良かった。
またお前と出会う為ならば――何をしようとも俺は後悔なんてしないのだから。






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Cancerだけ自ら加入したというのでその経緯を書きました。CancerはSpicaと何かあるような気がするんですよね。また、CancerとAriesに面識があるという部分はオリジナル設定です。