――持ち主の願いを何でも一つ叶えるという宝石があるらしい。

「なあ、知ってるか?願いを何でも叶えてくれる宝石があるらしいぞ」
「何それ」

隣で目をきらきらと輝かせるあいつの言葉を、オレは冷たく一蹴した。するとあいつはしょんぼりとした表情でお前は冷たいと不満を零した。

「だってそんなの非科学的だろ。宝石が願いを叶えるなんてある筈もない」
「そりゃそうだけどさ〜お前はロマンがないぜ」
「つーかさ、プレゼント探さなくて良いのか?」
「あ、そうだった!」

あの日はもうすぐ誕生日を迎えるというあいつの彼女へのプレゼント選びに付き合わされていた。他の女友達に頼めば良いだろ、と思ったけど、あいつの中ではタブーらしい。妙なところで律儀な奴だ。

次の店へと移動しようとした矢先、不意にあいつが足を止めた。

「どうした?次の店行くんだろ」
「…何か変な臭いしねぇか?」
「え?」

突然そんなことを呟いたかと思うと、あいつは辺りを見回し始めた。様子がおかしいと思って声を掛けようかと思ったその時――俺はあいつに突き飛ばされていた。

「ナオシ、危ない!」

そうあいつが叫んだのとほぼ同時に、目の前で大きな爆発が起こった。爆発の規模はとてつもなく大きく、あっという間に辺りは火の海になった。

「…ヒロ…キ…」

それから間もなくして、オレのことを庇ったせいで爆発に巻き込まれ、ぼろぼろになったあいつの姿が視界に飛び込んできた。なのにオレはその場から一歩たりとも動くことは出来なかった――



あの爆発によって多くの人が負傷、あるいは亡くなったと聞く。そしてその裏には――願いを叶えるあの宝石が絡んでいたということも。
あの日を境に、宝石は姿を消したのだという。顔も知らない誰かが、そんな夢物語のような話を信じて宝石を盗んでいったんだ――何人もの命や人生と引き換えにして。

あいつはかろうじて一命は取り留めた。だけど、あの日からずっと眠ったままだ。あいつの彼女は悲しみのあまり姿を消し、温かさで包まれていたオレの居場所は一瞬で熱を失い、冷え切った場所になってしまった。

「…なあ、そろそろ起きてくれても良いんじゃないか?」

そう呼びかけても返事はない。お前に話したいことが沢山あるのに…いつまで寝てるつもりなんだよ。

お前が眠ってる間に色んなことがあったんだ。あの時お前が話した宝石を、今オレが探してるなんて聞いたらお前はどんな顔するだろうか。オレが怪盗やってるって聞いたらきっと凄く驚くんだろうな。

「なあ、ヒロキ。あの日から今日で――5年だ」

そう、もうそんなに経ったんだな――全てが変わってしまった、あの日から。



――持ち主の願いを何でも一つ叶えるという宝石があるらしい。それを手にしたら、オレは何て願うだろう?

ヒロキが目覚めることを祈るか?いや、違うな。きっとオレはその宝石がこの世から消えてなくなることを願うだろう。

多くの犠牲のもとに叶えられた願いなんて、くそくらえだ。悲しみをこれ以上連鎖させないためにも、オレは――オレ達は負ける訳にはいかないんだ。


それにさ、オレは思うんだ。願いってもんは――誰かの力に頼るんじゃなく、自分の手で叶えるものだって。






****
Leoの過去話。トレイラーをもとにかなりオリジナル設定を入れました。