「あーめんどくせぇ」 俺は今日、病院に検査を受けに来ている。こないだ体調を崩しちまって、そのことで周りが病院に行けとうるさかったんだ。特にCapricornとCancerの奴。あいつらは俺のオカンかっつーの。 最初は大丈夫だと抵抗していたんだけど、Ariesさんに行けと言われてしまった。Ariesさんに言われちゃ、もうそれ以上は拒めない。そこで俺はリーダーの家が経営する病院までわざわざ足を運んだという訳だ。 世界でも有名な資産家だけあって、凄く設備の整った病院だ。医者の腕が確かなのは勿論、プライバシーの管理も徹底していて、怪盗業をやってる俺でも安心して受診出来る。 しかし――こんだけの資産があるくせに、どうしてリーダーは怪盗なんてやってるんだ?それ程までに、あの何でも願いを一つだけ叶えてくれるっていう宝石に価値があるのだろうか。 そんなことを考えていると、不意に視界の端に人影が映った――それは俺と同じ位の年の女、だった。腰まである長い髪がさらさらと風に揺れて、何だか神秘的に思えた。 その様子をぼーっと眺めていたら、突然女が俺の方を向いた。そしてそのまま俺に向かって歩いてくる。やばい、見てたことがばれたのか―― 「あの、循環器科の待合室ってどこですか?」 「…え?」 予想とは180度違うそいつの言葉に、俺はつい間抜けた声を出してしまった。 「えっと…」 「…え、あ!循環器科なら、3階の西側病棟だけど」 「ありがとうございます!…すっかり迷ってしまって」 そう言ってそいつは情けない笑みを浮かべた。しかし、どっからどう見ても不健康そうには見えないけどな。そう思った瞬間、疑問が口から零れ出ていた。 「診察受けに来たのか?」 「あ、いえ。私は付き添いで」 「そっか、立ち入ったこと聞いて悪かったな」 「いえいえ。教えて下さって本当にありがとうございました」 「んなこと気にすんな」 「…優しいんですね」 「えっ?」 「それじゃ、またどこかで会えたら良いですね!」 会釈をして、そいつは循環器科の方へと掛けて行く。俺はそいつの姿が見えなくなるまでこの場から動くことが出来なかった。 最後にそいつが見せた満面の笑顔が、何故だか目に焼き付いて消えない――またどこかで会えたら良いと、この時俺は心のどこかで思っていた。 真昼の月に恋をした **** 前回の話の続きになります。PiscesとSpicaの出会いです。SpicaはFomalhautの付き添いで病院に来ていたという感じですね。 |