そんな時だ、あの人が俺の前に現れたのは。 『お前か?この界隈で一番喧嘩が強いって奴は』 『…誰だ、お前』 何の前触れもなく、突然俺の前にあの人は現れた。そして俺を見るなりそう言ってきた。 この辺りで見ない顔、それなのに俺のことを知っていたあの人を、俺は警戒した。 『あ、俺?俺はまあ…怪盗団のメンバーだよ』 『怪盗団?』 『そうだ。単刀直入に言うが、お前を誘いに来た』 『は?』 『俺達の怪盗団にはお前の力が必要なんだ。だから力を貸してくれないか』 怪盗団のメンバー、と言われてすぐに信じられる訳がなかった。それに俺の力を必要としてるだなんて――もうすぐ使い物にならなくなる俺を誘いに来たなんて、ある筈がないだろう? 『嫌だ』 『どうしてだ?こんな所でお前の力を燻らせていても良いことないだろうが』 『…怪盗団なんてそんな訳の分からない場所、易々と行く筈もねぇだろうが』 『そうだな、Zodiacとでも言えば分かるか?』 『――っ!?』 その名前には聞き覚えがあった。ここ最近一気に有名となった怪盗集団の名だ。まさか、と思い、俺はあの人の顔を見た。だけど、あの人の目には、偽りなんてなかった。 『これで嘘じゃないって分かっただろ?…俺達のもとに来てくれるか』 『行かねぇ』 『どうしてだ』 『…………』 『お前は、逃げるのか』 その言葉に、何もかも見透かしたような瞳に、俺は耐え切れずあの人に殴りかかった。だけど、あの人は俺の拳をかわした。何度も何度も殴りかかったけれど、その度にあの人はかわし続けた。 そして――あの人に拳を当てるよりも早く、俺の身体に限界が訪れた。 『…っ、はあっ…お前は…っ、こんな身体の俺、でも…良いのか…っ』 『ああ、勿論だ。お前でなければ意味がない』 『……っ』 その言葉に、涙が溢れた。欠陥だらけの、何時壊れるか知れない俺を必要だと言ってくれた。嘘じゃない。それがあまりにも嬉しくて、どうしようもなくなった。 その時、決めたんだ――これからの俺はこの人の為に、力を使おうって。 『…俺、Zodiacに入ります』 『ありがとう。これからよろしくな』 『はい…!』 最後の希み あの日俺は確かに、希望を手にしたんだ――最後の、希望を。 **** Pisces加入話。きっとAriesはPiscesの命が長くないこととかを全て知った上で会いに行ったのだと思います。しかしPiscesがあまり荒んでいないような… |