「風早、煮物はここに入れれば良いの?」
「はい、お願いします」
「うん!あ、ちょっと那岐!寝てないで手伝ってよ」
「嫌だ。面倒だし」
「もー!」

台所に立ってお雑煮を作っている俺の目の前で、寝転がってる那岐に千尋が頬を膨らませている。千尋は率先してやってくれるけど、那岐はこういうの面倒くさがってやらないからなぁ。

「ほらほら二人とも。喧嘩しないで」
「喧嘩じゃないよ!那岐がやらないから…」
「千尋がうるさいだけだよ」
「やれやれ…おせち詰め終わったらお雑煮食べて、神社にお参りに行きましょう」
「「お参り?」」

きょとんとした表情で千尋と那岐が俺に訪ねてきた。確かに、“あちら”では初詣みたいな風習はまだないからね。

「一年の初めに神様にお願いごとをしに行くんですよ。例えば今年一年健康でありますように、とか」
「ふーん」
「そうなの!?神様何でもお願いごと叶えてくれるのかな?」
「千尋が強く願えば、きっと叶いますよ」
「ほんと?ならいーっぱいお願いしなきゃ!」
「じゃあ、まずはおせち詰めましょうか」
「うん!」

純粋に神様を信じ、無邪気に笑う千尋に幸せが降りかかることを、俺は強く願った。






「……ん」

視界に飛び込んできたのはあの橿原の家のものではなく、橿原宮の一室の天井だった。どうやら俺は夢を見ていたらしい。

「あれはあの世界で初めて迎えたお正月だったかな」

逃げ込んだ世界で迎えた新年。ここで迎えていたそれのような豪華さはなかったけれど、それでも凄く幸せだった。

「流石にもうああいう正月を迎えることは出来ないかな」
「何が出来ないって?」
「――っ!?」

声がした方向に顔を向けると、そこには――いつの間にやって来たんだろうか――千尋が立っていた。

「風早こんなところにいたんだ」
「どうしたんですか?今日は儀式だった筈では…」
「取り敢えず一通り終わったよ。岩長姫が気を利かせて少し早く終わらせてくれたんだけどね」

やっぱり疲れるものね、と千尋は苦笑いした。王となって初めて迎える新年だ、色々とやらなくてはならないことがあって大変だろう。
それを俺が手伝うことが出来ないことが――何よりも歯痒かった。

「ねえ、風早」
「何ですか?」
「今から時間ある?」
「え、ええ。時間ならたっぷりありますが」
「それなら初詣に行こうよ!」
「初詣?」

この世界ではもう二度と聞くことがないと思っていた言葉だったので、つい俺は千尋の言葉を反芻してしまった。

「そうそう。近くの神社で良いから」
「でも、大丈夫なんですか?勝手に出掛けたりなんかして」
「遅くならないうちに帰ってくれば大丈夫だよ!それに風早もいるし」
「…全く、千尋は相変わらずですね」
「だって、風早と一緒にお正月したかったんだもん!あの家にいた時みたいにおせちとかは作れないけど…初詣なら出来るでしょ?」
「千尋…」

千尋も俺と同じ思いだったということが嬉しくて、俺の胸はいっぱいになった。
あなたはいつだって――俺を喜びで満たしてくれるんだ。

「ね、風早。行くなら早く出かけようよ!」
「そうですね」


今年は千尋、あなたの幸せと――いつまでもあなたの傍にいたいと願おう。欲張りかもしれないけれど、俺にはどちらも同じ位大切な願いだから。


白き祈り

(どうか、神に届きますように)



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明けましておめでとうございます!新年初更新は風千にしました。定番の初詣ネタということで(笑)こちらはノーマルED後を考えて書いた話です。少し過去話も絡めてみました。