「花ちゃん!」
「孟徳さん」
「ここにいたんだね。うん、俺の見立て通り良く似合ってる」
「そ、そうですか!?ありがとう、ございます」

孟徳を庇って負った怪我により、暫くの間療養生活が続いていた花だったが、数日前に医者からもう普通に動いても大丈夫だという旨を告げられた。
それを受け、孟徳は花の快気祝いの宴会を盛大に執り行うことに決めた。花が孟徳から贈られた衣装に着替えてから宴会を行っている部屋にやって来ると、宴会は既に盛り上がりを見せていた。

「今日は君の為に色々用意させたからね。楽しんでもらえると嬉しいな」
「はい…でも少し豪華過ぎるような…」
「そう?これでも抑えたつもりなんだけど」
「え?」
「ん…?呼ばれてるみたいだな。折角君と話してたのに…ちょっと待ってて、すぐに戻って来るから」

不満そうな表情をしながら、孟徳は呼ばれた方へと行ってしまった。一人残された花がこれからどうしようかと思っていると、見慣れた二人が花の方へと歩いてきた。

「あ、文若さん、元譲さん」
「おや、丞相は?」
「誰かに呼ばれて行っちゃいました」
「まあ、あいつは忙しいからな。それよりもどうだ、楽しんでるか?」
「あ、はい。でも少し豪華過ぎるかなって…たかが私の快気祝いですし」
「お前にとってはたかが、かもしれんが、丞相にとっては一大事なんだ」
「どうしてですか?」
「…お前、気付いていないのか」
「まあ文若、それ位にしとけ。お前も孟徳が好きでやってることなんだ、だからあまり気にするな」
「ちょっと、俺のいない間に花ちゃんに近付くのやめてくれる?」
「孟徳さん!」

何時の間にか、孟徳が戻って来ていた。心なしか少し不機嫌そうな彼の態度にいち早く気が付いた元譲は大きな溜息を吐いた。

「俺達に八つ当たりするな。たまたま会っただけだ」
「八つ当たり…?」
「花ちゃん、行こう」
「わ、孟徳さん」

急に花の腕を引っ張ると、孟徳は彼女を連れて宴会場を出た。そのまま孟徳は自室へと花を連れていった。

「ここなら邪魔は入らないね」
「孟徳さん?」
「ねえ花ちゃん、左手出して」
「え?」
「良いから」

孟徳に言われるまま、花は左手を差し出した。すると孟徳は優しくその手を取り――薬指にそっと何かをはめた。

「え、これは…」

自分の薬指にはめられたものに、花は目を丸くして驚いた。
小さな玉が付いたそれはまるで――元いた世界にあった指輪のようだったからだ。

「君付きの使用人から、君のいた世界では結婚したい相手に指輪を贈るという話を聞いたよ」
「あっ…」

そういえば、以前にそんな話をしたような覚えがあった。だけど、それを何故、このタイミングで孟徳が話しているのか花にはさっぱり分からなかった。

「あれからちゃんと言ってなかったなと思って。花ちゃん、改めて俺の妻になってくれないか?」
「孟徳さん…」
「一生君を幸せにする。君を信じるから…だから、俺だけのものになって」

真剣な眼差しと、声――いつだって愛してくれて、花自身も愛している孟徳のプロポーズを断る理由なんて、どこにもない。

「はい…私、孟徳さんのお嫁さんになりたいです」
「花ちゃん…っ」

花の返事を聞くや否や、孟徳は花を強く抱きしめた。彼の気持ちに応えるように、花も孟徳の背に腕を回し、そっと彼を抱きしめた。


永久の契り

(その命尽きる日まで、共にあろう)


「そうと決まったら、早く式の日取りを決めないとね」
「そうですね」
「あと」
「?」
「待つのは君が良くなるまでって話だったからね。今日は…良いでしょ?」
「え、ちょ、待ってくだ…」
「待たない」
「孟徳、さん…!」

この後の二人がどうなったかというのは――また、別のお話。


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そういえばちゃんとしたプロポーズをしてなかったなということで、孟花プロポーズ話を書きました。花ちゃんの快気祝いと絡めてみたりなど。
指輪の話ですが、孟徳ならこれ位用意しちゃいそうな気がしたので。花ちゃんの為なら何でもやってしまう仕方のない孟徳が好きですね(笑)
最後のは…完全に蛇足ですね。すみません(汗)