錫也と付き合ってから初めて迎えるバレンタイン。その…彼女としては、やっぱり何か作りたいという気持ちがある訳で。 一週間程前、二人で一緒に帰った時にそのことを錫也に話してみた。そしたら
『月子は何も用意しなくて良いよ』
と言われてしまった。勿論そういう訳にはいかないと反論したんだけど…何時の間にか錫也に上手く言い包められてしまっていた。
私も私で、生徒会バレンタイン企画の準備が忙しくて何か作るどころではなく――錫也にあげるチョコを用意しないまま、バレンタイン当日を迎えることになってしまった。
「神様仏様東月様!どうかこの俺にチョコを恵んで下さい!!」 「東月!俺にもちょーだい!」 「東月の作るもん美味しいから楽しみにしてたんだよなー」 「おいおいお前ら落ち着けって…今順番にやるからさ」
錫也の席の周りに集まった男子達はみんな揃って錫也にチョコをねだっている。そんな彼ら一人一人に錫也は用意してきたチョコを手渡していた。多分あれはクラス全員分あるに違いない。
「…………」
いや、何ていうかこの状況は女子としてひじょーに複雑と言いますか…錫也の料理の腕は抜群に良いし、私なんて足元にも及ばないってことをクラスのみんなは分かってるからこそのこの状況なんだけど。でも、何か落ち込んじゃうな…
「おー、錫也は人気者だな」 「哉太!」
後ろから声がして振り向くと、そこには哉太がいた。哉太はそのまま歩いて来て、私の隣で足を止めた。
「お前には誰もチョコ貰いに来ないってか?どっちが女だか分かんねぇな」 「もう、哉太ったら!」 「だってホントのことだろ?……まあ、誰も錫也いる前で堂々と貰いに行く勇気なんてないだろうけどな」 「え、何か言った?」 「いいや、何でもねぇ。そういやお前は錫也にチョコ用意したのか?」
哉太にそう言われて、心臓がドキリと音を立てた。何も用意してない、なんて知ったら呆れるかな?でも哉太に隠し事なんて出来ない…私は本当のことを伝えることに決めた。
「…何も用意してないの」 「はあ!?」 「前に錫也にバレンタインにあげるね、って言ったら何も用意しなくて良いって返されて…でもそういう訳にもいかないって思ってたんだけど、生徒会の方の準備が忙しくてそのまま…」 「用意しなくて良いって、錫也がそう言ったのか?」 「うん…」 「…まーたいつもの独占病か」 「え?」 「ま、錫也がそう言ったなら良いんじゃねぇの?月子は気にすんな」
いきなり態度が変わったかと思うと、哉太はそのまま自分の席へと着いてしまった。さっき小声で何て呟いてたのかが、私は気になって仕方がなかった。
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