「っくしゅん」
静かな生徒会室にあいつのくしゃみが響く。
「おいおい、風邪か?」 「あ、いえ、大丈夫です」
俺に向かって元気だというようなアピールをすると、月子は再び仕事を始めた。 今日の生徒会室には俺と月子の二人しかいない。颯斗は部活、翼は授業の課題だとかで来られないそうだ。だから今日は二人だけで仕事をすることになった。
「一樹会長、この資料まとめ終わったのでこっち置いときますね」 「ああ、ありがとな」
テーブルに資料を重ねる月子の姿をぼんやりと眺めているうちに、何故か俺はあの時のことを思い出していた――
『かーずきくん』 『ん?ああ、月子か』
学校が終わり、いつものように神社の裏にいると、これまたいつものように月子がやって来た。だが、その日錫也と哉太は一緒ではなかった。
『今日は何して遊ぼっか?』 『なあ、錫也と哉太はどうした?』 『すずちゃんはお家のお手伝いがあるとかで、かなちゃんも何か用事があるみたい。だから今日は私一人なの』 『そうか。別に無理して一人で来なくても良かったんだぞ』
そう言って、俺ははっとした。流石にこの言い方は良くなかったと思い、訂正しようとしたんだが…月子は何故かにっこりと笑って、俺にこう返したんだ。
『だって、かずきくんが寂しがるかと思って』 『……はあ!?何言ってるんだよお前』 『何って、私達が来ないとかずきくん寂しいでしょ?』 『あ、のなあ…』 『うーそ!ただ私がかずきくんと遊びたかっただけだよ!』
何も言い返すことは出来なかった。その瞬間感じたのはただ、月子を愛しいと思う気持ちだけ。この時俺は心に誓った――絶対に月子を守ろう、と。
(……結局、守れなかったんだけどな)
あの日の誓いを俺は果たすことが出来なかった。月子から俺の存在を消して、あいつらの前から立ち去った、いや逃げたんだ。 そして何の因果か、今お前がこうして俺の目の前にいて一緒の時を過ごしている。俺を思い出したらいけないと、最初は遠ざけようと思った。だが、どこかであの誓いを果たしたい俺がいて――結局、月子のことを近くに置いておくことにしたんだ。
往生際が悪いことは覚悟している。だが、俺は月子のことが誰よりも大事なんだ。一番近くにいられることなんて望んではいないが――守りたいんだ。
「っくしゅん」
生徒会室に再び響いたくしゃみの音で、俺は思考の淵から引き戻された。寒いのを我慢しているのが丸分かりの月子に仕方ないなと苦笑し、ブレザーを脱いであいつの肩に掛けてやった。
「ほら、寒いならこれ羽織っとけ」 「すみません…」 「良いんだよ。最近寒くなって来たからな」 「もうすぐ冬がやって来ますね」 「ああ…今年の冬も色々やるつもりだからな、覚悟しておけよ」 「はい!」
冬が、もうすぐそこまでやって来ている。お前と過ごす最後の季節が――確かに訪れようとしていた。
冬の足音
**** 10000HITフリリクとして置いていたものになります。甘い感じにしたかったのにどうしてこうなった…みたいな内容になってしまいました。
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