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今日は朝から何だか不思議な予感がする。

何か大切なことを忘れているような、あるいは心に何かが引っかかっているような、そんな感じがしていた。だが、決して悪い予感ではない。だから俺は特に気にすることもなく大学へと向かった。

来月には海外へ行く予定を立てていたから、今月は出来る限り講義に出ようと予定を詰めた。今日も朝から夕方までずっと講義がある。忙しくないと言ったら嘘になるが、別に苦ではない。やりがいがあって良いじゃないかと思っている。

午前の講義が終わり、昼飯を食おうと学食へ向かった。その途中、良く知った人物に声を掛けられた。

「一樹」
「誉」
「お昼一人?それなら一緒に食べようよ」
「ああ、そうだな」

誉とは学部が違うが、1年生の授業は殆どが一般教養だからこうして大学内で会うことも多い。

「あ、そうだ。一樹おめでとう」
「…は?何がだ」
「何がって…一樹、今日自分の誕生日だってこと忘れてたの?」
「あ」

呆れた表情で誉が俺を見る。そういえば、今日は俺の誕生日だった。ここのところ忙しくてすっかり忘れていた。

「何ていうか、一樹は自分のことには無頓着だよね」
「…返す言葉もない」
「というか、夜久さんからは何もなかったの?」
「――っ!?」

月子の名前を出され、心臓が大きく音を立てた。そういえば、昨夜あいつから明日会えませんか、とメールが来ていた。突然どうしたんだと思ったが、今日は平日で俺も講義が詰まっていたから会えないと返事を返していた。

まさか――月子は俺の誕生日を祝いたかったのか…?

「…一樹、まさか夜久さんからの誘い断ったの?」
「あ、いや…」
「はあ…本当に君は」

誉が大きく溜息を吐く。本当に返す言葉もない。月子がどんな思いで俺にメールを寄越したかを考えると、申し訳なさでいっぱいになった。
今すぐにでも謝ろうと携帯を開く。その瞬間、携帯がメールの受信を知らせた。差出人は――あいつだ。

【正門まで来て下さい】

まさか、と思った。だが、俺はもう正門へと走り出していた。誉が呼ぶ声が聞こえたような気もしたが、もうそれどころではなかった。

正門の前に――月子がいた。間違いなどではない。俺がやって来たことに気付いた月子が、ここまで走って来る。

「一樹先輩!」
「…お前、学校はどうした」

そう口にしてからしまったと思った。もっと言うべきことがあっただろうと思っても遅い。月子の表情は暗くなり、俺達の間に暫し沈黙が流れた。

「…休みました」
「はあ!?」
「だって、だって一樹先輩の誕生日お祝いしたかったから!」

叫ぶように、月子は言った。その声は心なしか震えているように思えた。

「月子…」
「今日は平日で、私も先輩もそれぞれ学校があるのは分かってます。だけど、お祝いしたかったんです。先輩はもうすぐ海外へ行っちゃうから…」

会えなくなるから、と呟いた月子の声がとても寂しげで、そんな思いをさせたくないという衝動が湧き起こり、俺は月子を抱きしめてた。周りで少しどよめきが聞こえたが、そんなもの関係ない。

「…ごめんな。お前の気持ち分かってやれなくて」
「いえ、私がわがままなだけなんです」
「そんなことないよ。お前が来てくれて本当に嬉しい」
「一樹先輩…お誕生日おめでとうございます」

顔を上げて、ふわりと月子が笑った。それだけで、俺の心は満たされる。

「ありがとな。そうだ、これからデートするか」
「え、講義は良いんですか!?」
「少し位サボったって構わないさ。ほら、行くぞ」
「え、わ、先輩!」

月子の手を引いて、俺は正門を出た。折角だ、二人でどこかに出掛けようじゃないか。
――きっと今日は最高の一日になる、そんな予感がした。




(それはお前がいるからだな)



****
遅くなりましたが一樹誕生日祝いです。一樹おめでとう!
何だか一樹がちょっと駄目というか情けない一面を見せてますが、こういう一樹も良いなって思います。誉には頭上がらないんだろうなぁ(笑)




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