――昔から、気持ちを隠すことは得意だった。そうすれば何の問題もなくずっとこのままでいられることを知っていたから。
昔から俺には月子と哉太がいれば充分だった。あいつらの笑顔を守る為だったら俺は何だって出来た。逆を言えば…あいつらがいないと俺は駄目だった。幼馴染3人の関係が崩れることを、変化を何よりも恐れていたのは俺だった。
『すずちゃん』
だから俺はずっと気付かない振りをしてきたんだ。いつしかあいつを――月子を幼馴染としてではなく、一人の女の子として想っていたことに。
その想いはあの夜からより一層強くなっていった。あいつが危険な目に遭わないように、あいつの笑顔が曇ることがないように俺は必死だった。 俺を動かしたのは紛れもない月子への恋心だ。だけど、それを打ち明けて俺達の関係が壊れるのが怖かったから、俺は保護者振ることで月子への気持ちに蓋をし続けてきた。
その蓋が外れることなんてないと思ってた。だけど――羊が俺達の前に現れてから何かが変わり始めた。
羊はすっと俺達の中に入って来て、いつの間にか4人でいることが心地よくて、当たり前のことになった。しかし、それと同時に俺の心は波を立て始めた。
真っ直ぐに月子に気持ちを伝える羊。そんな羊の姿を見る度に――俺は逃げているんだと強く自覚させられた。 今のままで良いと、隣で守れたら良いと思ってきたけれど、月子に誰か好きな奴が出来たら、俺じゃない誰かに守られることを望んだら――俺はどうするんだ?
想像して、目の前が真っ暗になった。月子が隣にいないことなんてなかったから、あいつがいなくなったらどうなるのか分からない。ただ、俺じゃない誰かの隣であいつが微笑むなんて、嫌だった。
『錫也はどうしたいの?月子に想いを伝えなくて良いの?』
この間、羊が俺に向けた言葉が頭を過った。あの時は曖昧な返事をしてしまったけれど、今ならちゃんと答えられる――俺は月子の一番近くにいたい、と。
いつの間にか、天文科の教室の前まで来ていた。教室の中を覗くと、月子がノートと睨めっこしていた。多分、羊の送別会のことを考えているんだろう。
「月子、何してるんだ?」 「あっ、錫也!羊君の送別会のことを考えていたの」
俺が声を掛けると、月子はノートから俺へと視線を移した。俺は教室の中に入り、窓際に立つ月子の隣に並んだ。
「どうだ?調子の方は」 「うーん…色々と案はあるんだけどまとまらないっていうか。錫也は?」 「俺も色々考えてるよ。取り敢えず羊の好きなチョコレートを使ったケーキを作ろうかと思ってる」 「わあっ!羊君喜びそうだね!」
まるで自分のことかのように、月子は喜ぶ。その表情が俺の心に昏い影を落とした。
「…お前は羊がいなくなって寂しいか?」 「…うん」 「羊が好きか?」 「うん、大好きだよ」
大好きだよ、その言葉のせいで俺は何も考えられなくなる――もう、限界だ。
「俺じゃ羊の代わりにはなれないか?」 「え?」 「月子…お前が好きなんだ」
もう後戻りは出来ない。俺達の関係が壊れる音が――確かに聞こえた。
satellite
(あいつを見守っていられるだけで良いと、思っていた筈だったのにな)
**** ずっと書きたかった告白前の錫也の心情話です。アニスカ錫也回見てたら考えてた内容と被りまくっていて心読まれたかと思いました(笑) タイトルは和訳すると衛星という意味になります。ゲーム中でも錫也は月だっていう話があったのでぴったりだなと思いまして。moonも衛星という意味があるようなのですが直接的だったので今回はsatelliteを選びました。
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