「…オレらしくなかったかな」

譲の部屋をあとにして、オレはさっき取った行動を反省した。流石に少し干渉が過ぎたか。譲がどれだけ望美を想っているのか、それをずっと秘めてきたことを分かっていながら、オレはあんなことを言ったのだから。

そういえば…あいつは最後に何か言いかけてなかったか?時間が、とか言ってたような…時間なんてこの戦が終わっちまえばいくらでもあるだろうに。それなのに何で――


――あんなにも切羽詰まった顔をしてたんだろうか。



それから数日後のことだった。夜中、情報収集を終えて景時の邸に戻ってきたオレは、縁側に腰掛けてぼんやりと空を眺めている譲と出くわした。

「…譲?」
「…ヒノエか。こんな遅くまで何処に行ってたんだ?」
「ちょっと野暮用でね。お前こそこんな時間まで起きてるなんてどうかしたのかい」
「……眠りたくなくて」

オレの問いに答えるのを躊躇う素振りを見せた後、譲はオレに聞こえるか聞こえないか位の声でそう呟いた。
眠れない、じゃなくて眠りたくない、という言葉にオレは疑問を抱く。

「眠りたくないって、悪い夢でも見るのかい?」
「…まあ、そんなところ」
「所詮夢なんだ、そこまで気に病むことはないとオレは思うけど。それよりも今ちゃんと体休めとかないと、これからがきつくなる。肝心なところで神子姫様を守れなくなる方が問題だろ?」
「ああ、そうだな…」

そうやって曖昧に笑った譲の本心を、オレはこの時知る由もなかった。


――だけど、間もなくして知るのだった。それも最悪の形で。



「譲くん、譲くん…いやあああ!!」

寂れた海辺に、望美の悲痛な叫びがこだまする。その腕の中には、譲がいた。
望美がどれ程強く抱きしめても、何度名前を呼んだとしても――もう二度と動くことはない。


そしてオレは気付いたんだ――譲がこの悲劇の結末をずっと前から知っていたことに。

――計り知れない痛みをずっと抱え続けてきたことに。


僕らの地面は乾かない

(ああ、涙の雨が降っているよ)



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ブログ再録。ひとつ前の話のその後、ヒノエ視点です。譲には可哀想な話を書いてしまったので、次こそは幸せな話を書きたいです。





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