「ヒノエくんなんかきらい」

仕事を終えて邸に帰って来たオレを迎えたのは、望美のこの一言だった。


――望美が不機嫌そうな顔をしてオレから目を背ける理由にひとつ、心当たりがあった。
今日はオレの生まれた日。望美の世界では生まれた日を誕生日といって祝う風習があるらしく、オレの誕生日を祝うんだと言って張り切って用意をしてくれていた。オレも望美と過ごすつもりで今日一日予定を空けていたんだけど。

今朝になって突然近くで問題が起こったという報せが入って来た。最初は些細なものだと思っていたんだけどどうやら予想以上に状況は深刻で、オレ自らが赴かないと解消出来ないものだった。望美に一言断ってからオレは邸を出た。

そして今帰って来たんだけど…夜もすっかり更け、もう後は寝るだけという時間になってしまった。流石に今からオレの誕生日を祝うことは出来ないだろうね。
で、目の前にいる姫君はきっと…オレの帰りが遅かったことに腹を立てているのだろう。

「…帰りが遅くなったことは本当に悪かったよ。謝る。だから機嫌を直してくれないかい?」

オレがこう言っても、望美はまだそっぽを向いたままだ。

「…ヒノエくんなんてきらい。別にヒノエくんの誕生日なんて祝いたくなかったもの」

オレの誕生日を祝いたくなかったという言葉に違和感を覚える。それなら何故こんなにも不機嫌なのか?
そう考えているうちに、あることを思い出した。前に望美達から聞いたことがある。

望美のいた世界では――今日は嘘を吐いても許される日なのだということを。

「お前は嘘吐きだね」
「えっ…」
「オレのことを嫌いというのも、オレの誕生日を祝いたくなかったというのも嘘だろう?」
「どうして」
「だって、今日は嘘を吐いても許される日なんだろ?」

オレの言葉に反応して、漸く望美がこっちを向いてくれた。その表情は今にも泣き出しそうに見えた。
望美の腕を引いて、オレの胸の中に閉じ込める。逃げてしまわないように、抱きしめる腕に力を込めた。

「本当に、ごめん」
「…良いの。仕方ないって分かってたのに割り切れない私が悪いの。私こそ、ごめんね」
「全く…お前はもう少し我儘を言った方が良いぜ」
「私が我儘を言うと大変なことになるよ?」

そう言って、望美は悪戯っぽい笑みを浮かべた。やっぱり望美は笑っていた方が良い。

「漸く花の顔に笑顔が戻ったね」
「…さっきは嘘でも嫌いって言ってごめんね」
「望美…」
「ヒノエくん、誕生日おめでとう。大好きだよ!」
「ありがとう。オレの姫君…愛してるよ」

オレの言葉に真っ赤になる望美が愛しくて、堪らない――さあ、この想いをどうやって伝えようか?


ほんとのきもち

(夜はまだ、長いからね)



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ヒノエ誕祝い文になります。ちょっと夫婦喧嘩させてみました、というより望美が一方的に怒ってます(笑)エイプリルフールということで嘘ネタも絡めてみました。ヒノエ誕生日おめでとう!





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