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「まーさーおーみーくん！今日は何の日でしょう？」
「はあ？」

下校し、将臣の家の前まで辿りつくと望美は突然そう言った。
今日は2月14日、バレンタイン――世間一般では女性が好きな男性にチョコレートを贈る日、なのだが、望美の言葉の意図を図りかねた将臣は、まともな返事をすることが出来なかった。

「ぶっぶー時間切れ。駄目だなぁ、将臣くん。こんなのも分からないなんて」
「あ、のなあ…」
「正解は…バレンタインです！はいこれ」

にっこりと笑って、望美は後ろ手に隠していたものを将臣に差し出した。
可愛らしいラッピングがされたそれは――どこからどう見てもチョコレートだ。

「…これ、お前が作ったのか？」
「うん！そうだよ」
「げ」

恐る恐る尋ねると、望美から返って来たのは頭のどこかで予想はしていたが、そうであって欲しくはないと願っていた最悪の答えだった。

長年の付き合いで、将臣は望美が料理が出来ないことを知っている。ということは、今手渡されたチョコレートの出来も自ずと予想出来る訳で。そういったことを考えているうちに、将臣の口から本音が漏れていた。

「げ、って何よ」
「だってな…」
「むー…将臣くんひどい」
「ひどいのはどっちだ！」
「今回のは自信あるんだから！とにかく騙されたと思って食べてみてよ！」

騙されたと思って、とはどういうことだと思ったが、望美の気迫に負けた将臣は仕方なく望美がくれたチョコレートのラッピングを取って箱を開けた。

中にはブラウニーだろうか、食べやすい大きさにカットされたケーキが何切れか入っていた。多少不格好な部分も見受けられるが、形は悪くはない。

(いや、問題は味だ…)

かつて何度も望美の手料理で痛い目を見てきた将臣は、正直なところ、ケーキを食べたくはなかった。
しかし、望美が目の前にいて食べない訳にはいかない――覚悟を決めて、将臣は一切れを口の中に放り込んだ。


「…………うめぇ」
「ほんと!?」

確かに、美味しかった。素直な感想を零すと、望美は嬉しそうに瞳を輝かせた。

「ああ、確かに美味い」
「良かった〜！譲くんに教えてもらって特訓した甲斐があったよ」
「…成程、な」
「わっ」

将臣は空いている方の手で望美の右腕を掴んだ。そのまま望美の手に視線を移すと――指に巻かれた絆創膏や所々に見える軽い火傷の痕が目に付いた。

「どうしたのかと思ってたんだが…今日の為だったんだな」
「き、気付いてたの…？」
「そりゃあ、気付くだろ」
「ほんとはもっと上手くやるつもりだったんだけど…」
「…ありがとな」
「――っ!?」

絆創膏だらけの望美の指に、将臣は唇で触れた。全く予想もしていなかった将臣の行動に、望美の顔は一瞬のうちに真っ赤になった。

「ま、将臣くん!?」
「ん？どうした」
「どうしたって…」
「何だ、まだ足りないのか？」
「…っ、バカ！」

将臣に意地悪そうな笑みを向けられ、望美の顔はいっそう赤くなった。

(でも…ちゃんと喜んでもらえたんだよね？)


それならば――来年は腕を上げて、今年以上に美味しいチョコをあげたいと望美は心の中で思ったのだった。


Suger sweet

(将臣くんに喜んでもらえるのは、やっぱり嬉しいから)



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遙かのバレンタイン創作は将望にしました。私が将望を書くと超シリアスか将臣がドSにしかならない不思議…あ、タイトルに意味は全くありません(爆)
迷宮のヒノエ後日談で普通にチョコ作ってたので、望美はやれば出来る子なのだと思います(笑)この続きのホワイトデー話も書いてみたいところです。