「弁慶さん!」
「どうしました、望美さん」
「弁慶さんの欲しいものは何ですか?」

真剣な表情で望美は向かい合って座っている弁慶にそう尋ねた。こういった状況となったのには、理由があった。

もうすぐ迫った弁慶の誕生日。望美はひと月程前から弁慶に知られないように彼の欲しいものをリサーチしていた。九郎にも頼んでこっそり聞き出そうとしていた位だ。しかし、一向に弁慶の欲しいものは分からないままで、これでは何も用意出来ないうちに誕生日当日を迎えかねないと思った望美は、最終手段として直接聞き出すという選択肢を選んだのだった。

異世界で弁慶と共に暮らすようになってもうすぐ1年。その間に特訓を重ねたおかげで、料理の腕は格段に上がった。流石に譲や朔のように豪華なものは作ることが出来ないが、弁慶の好物位なら美味しく作ることが出来るだろう。それに、弁慶には秘密にしてあるが、彼の欲しいものが買えるようにと貯金もしていた。ここで弁慶の欲しいものを聞き出し、それを贈ってご馳走を用意すればきっと弁慶も喜んでくれる――そう、思っていたのだが。

「僕の欲しいもの、ですか?うーん……思い付かないな」

望美の問いを受け、暫しの間考え込んでいた弁慶が出した答えは望美としては全く予想もしていないものだった。

「ええっ!?何も、ないんですか…?」
「ええ、何も」
「本当に…?」

確かめるように再度問い掛けると、弁慶はまた考えるような素振りを見せた後、やっぱり思い浮かばないんですよ、と困ったように笑った。

「だって、僕はもう欲しいものは手にしているから」
「え…?」

今の自分に欲しいものがない、弁慶はその理由を知っている。

ずっと今まで失うものと覚悟していた自分の命が、戦いが終わった後も確かに残っていて。また、見ることが叶わぬと思っていた龍神を取り戻した平和な世を、確かにこの目で見ることが出来ているのだから。

そして、目の前には自分を救ってくれた愛しい存在――これ以上何を望めば良いというのだろう。

欲しいものがない、ということは寂しいことではなく寧ろ幸せなのだ、と弁慶は思っている。そのことを望美にも分かってもらいたくて、弁慶はそっと望美の頬に触れた。

「べ、弁慶さん!?」
「望美さん、君がいてくれるだけで僕はもう充分なんですよ。君と共に暮らせている今を僕がどんなに幸せに思っているか、君は気付いていないでしょう?」

そうして優しく口付ける。弁慶が顔を離すと、望美の顔は真っ赤に染まっていた。その様子があまりにも可愛らしくて、弁慶の顔からつい笑みが零れてしまう。

「望美さん、僕は君を心から愛しています」
「弁慶さん…私も、弁慶さんのことが大好きです」

はにかむように微笑った望美の身体を強く抱きしめ、弁慶は再び口付けを落とす――今がどれ程にまで幸せなのかを、伝えるかのように。


君がいるだけで

(ほら、僕はこんなにも満たされる)



****
弁慶誕記念文になります。何かあまり祝った感ありませんが(苦笑)
無印ED後、初めて迎えた誕生日を考えて書きました。無印ED後の弁慶は満ち足りてそうなイメージがありますね(笑)欲しいものとかなさそうだな、と。
幸せな感じで書きたかったので、それが伝わったのなら本望です!弁慶誕生日おめでとう!





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