譲くん、と遠くから俺を呼ぶ優しい声が聞こえる――俺はこの声の主を知っている。

そう、あなたは――



「…るくん、譲くん」
「……先輩…えっ!?」

目を開けて真っ先に飛び込んできたのは、先輩の顔。想定外の事態に驚いて、俺は飛び起きた。
一、二度辺りを見回し、ここがリビングであることを確認した。どうやらソファーで寝てしまっていたらしい。

「チャイム押しても出ないから、勝手に入っちゃったんだ。ごめんね」
「あ、いえ…俺こそ出掛ける約束してたのに寝てしまってすみませんでした」

そう、今日は俺の部活が休みだから二人で出掛けようと約束をしていた。なのに寝てしまうなんて。
まだ、時間は大丈夫だろうかと時計を見る。今すぐ出掛ければ何とか大丈夫そうだ。急いで支度します、と先輩に断ってからソファーから立ち上がると、不意に先輩に服の裾を掴まれた。

「先輩?」
「…夢、見てたの?」

真っ直ぐな、だけどどこか不安を帯びた瞳で先輩は俺のことを見ていた。きっと先輩は心配してるんだ。俺が――またあの時のような夢を見ているのかもしれないと。

そう、夢の淵で俺を呼んでいたのは――他でもないあなただったんだ。あなたの温かい優しさに、いつだって俺は救われている。

「はい、見てました」
「え…」
「とても優しい夢でした…先輩、あなたが出て来てくれたからかな」

俺がそう言うと、先輩はとても嬉しそうに微笑った。先輩が微笑ってくれると、俺も嬉しい。

あの時、叶うことはないのだと諦めていた願いが、叶ったんだ――これ程までに幸せなことはない。


やさしいゆめを

(もう、夢を恐れる必要はない。だって、あなたがいるのだから)



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久し振りに遙かものを書きました。譲望無印ED後イメージです。短いですが、幸せな譲望を書きたいとずっと思っていたので書けて良かったです。本編で互いに辛い思いを沢山した分、ED後は幸せでいて欲しい二人ですね。





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