繋いだぬくもり


生徒が皆帰宅し、誰もいなくなった教室。そこで一人、望美は机に向かっていた。

「望美?」

ドアが開かれる音と共に聞こえた声に顔を上げると、教室の入り口に将臣が立っていた。

「将臣くん」
「何だお前、まだ残ってたのか」
「それはこっちの台詞だよ。いないからもう帰ったのかと思ってた」
「今まで職員室に呼ばれてたんだよ」
「職員室?」
「そ。何とか進級出来るってさ」

教室の中へと入った将臣は、そのまま望美の前の席までやって来て椅子を引き、望美の方を向いて座った。

「ほんと!?」
「ああ。出席日数は正直アウトだったらしいが、この間の試験の成績が良かったから大丈夫だってさ」
「良かった!将臣くん、珍しく勉強頑張ってたもんね」
「珍しくって、お前な…」
「でもほんとに良かったよ!」

まるで自分のことかのように喜んでいる望美を目の前にして、将臣の表情も自然と緩んだものになる。

「そういや、お前は何でこんな時間まで居残ってたんだ?課題か?」
「ううん、違うよ。日誌書いてたんだ」
「日誌?…ああ、今週お前週番だったか」

望美の机に視線を落とすと、そこには八割程望美の書いた文字で埋められた学級日誌が開かれていた。

「そうそう。あとちょっとで終わるから待っててもらえるかな?」
「ああ、良いぜ」
「ありがとう。すぐ書いちゃうね」

そう言うと、望美は再び日誌にペンを走らせ始めた。将臣は何も言わずに窓の外に視線を向ける。
不意に流れた沈黙に、望美の心は何故か波立った。


誰もいない教室
窓から差し込む夕日
将臣と二人きり


この状況には、覚えがあった――忘れる訳がない。
あの世界で、夢の中で、二人交わした言葉。そして、望美を残して一人去っていった将臣――

(駄目だ、このままじゃ)

言葉にすることが出来ない不安が望美を襲い、無意識のうちに将臣に手を伸ばしていた。
制服の袖を掴まれていることに気が付いた将臣は、窓の外に向けていた視線を望美へと移す。

「…望美?」
「……え?あっ、ごめん」

我に返った望美は、急いで手を離そうとする。それを制するかのように、今度は将臣が望美の腕を掴み――そのまま奪う様にキスをした。

「…んな不安そうな顔するなよ」
「――っ!?な、何でこんな場所で!」
「誰もいないから良いだろ」
「よ、良くないよ」
「…俺はもうお前の前からいなくなったりしねぇよ」
「っ…!」

自分の心の中を見透かされ、望美は言葉を失った。今にも泣きそうな望美の頭を優しく撫で、将臣は穏やかな笑みを浮かべる。そして空いている望美の左手を握った。

「早く終わらせて帰ろうぜ。不安ならこうしててやるからよ」
「…それじゃあ書きにくい」
「ったく、文句言うなよな」

将臣に手を握られるのは嬉しいけれど、子供扱いされているようで何だか悔しくなって、望美はささやかな反抗を試みたのだった。


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拍手お礼として置いていたものでした。遙か3最愛の将望です。十六夜ED直後の話ってそんなに書いたことないなと思ったので書いてみました。





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