AM11:00

「錫也、ねえ錫也ってば起きて!」

月子の愛らしい声が俺の鼓膜を震わせ、眠りの淵から掬い上げられる。目を開けると、俺を覗き込む月子の顔があった。

「ん…おはよう月子。お前が俺より早いなんて、珍しいな…」
「何言ってるの。もう11時だよ」
「そうなのか?」

時計に視線を移すと…確かにもう11時を回っていた。今日は休みだけど…珍しく寝坊してしまったようだ。

「錫也が寝坊なんて珍しいね」
「そうだな。ごめん、何も食べてないだろ。今起きて準備するから」

俺はベッドから起き上がり、そのままダイニングに向かおうとドアノブに手を掛けた。しかし、それは月子によって止められた。

「…もう少しだけ、このままで」

お願い、と可愛く頼まれて断る男なんてどこにいるだろうか?――もとより、俺が月子の頼みを拒む理由なんてないのだけど。

「もう少しだけ…な」


お前に付き合って、何をする訳でもないけれど、共に時間を過ごす――なんて幸せなんだろう。

そんな、午前11時。



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HYのAM11:00を聞いていたらふと浮かんだ話です。この曲凄く錫也っぽい(笑)超短編でしたのでこちらに収納しました。