「っ……う、ぁ、」

私だけじゃないって、知ってる。
そのくらい知ってる、だってあなた、モテるもの。

前の街で、何人、娼婦を乗せたんだっけ。
久々に寄れた街でもログがあっという間に溜まってしまう場合、こうやって、娼婦のひとたちを乗せることがある。

色んな部屋から聞こえる嬌声。
今日はどこも、今日からどこも、暫く煩いだろう。

隣の部屋から。
ローの部屋から聞こえる嬌声。

女の、甲高い声。
彼の、低い声。


聞きたくない、聞きたくない聞きたくない。

ねえ、どうして。
どうして、いつまでも私をあなたのそばに置いておくの。


「……ばか、」


それでも私は、あなたが好きだから、黙ってる。
別れない。別れたくない。

そうなるのは、きっと。
あなたが、私に死ねと言ったとき。


…でもね、ロー。
私、あなたが、誰かを抱いたベッドで同じようにされるのは、嫌いなの。
気付いてると思う、本当は。
娼婦が船に居る時、私はあなたに抱かれないって。

だけどそれを、あなたはわかっていて、そうするんでしょう?
だから、私もあなたの嘘を飲み込んであげる。



好きなんて、嘘でしょう



遠退いた気配に、ほくそ笑む。
目の前の女はわざとらしく啼くように俺の名前を叫ぶが、もう、どうでもよかった。

「…え、?」
「萎えた、失せろ」
「え、ちょっと、どういう、」
「二度は言わねぇ」
「わ、わかったわよ、」

床に捨てた服を女は拾って、部屋を出て行く。
シャワーでも浴びないと気持ちが悪い。
めんどくせェな。

本当は何の不安も感じさせず、あいつだけを抱けば、そうすればあいつはずっと笑っているはずだった。
でもそうさせなかった。

あいつがどこにも行かないように。
俺だけが追いかけるんじゃない、あいつも、俺を追いかけるように。
どこまでも、追い詰めて、それから、縋らせないといけない。


「……気持ち悪いもの、残しやがって」


胸元に残る赤い痕。あいつは、こんな綺麗につけられないだろう。
あの娼婦、いっそ殺してやろうか。

いや、…これを見たら、あいつはきっと泣きそうに、顔を歪めるに決まっている。
それはさぞ、俺のこの歪んだ劣情を掻き立ててくれるだろうに。



好きなんて、生温い



「…愛してる、ヘレン」


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