見上げる天井。彼の、顔。
近いけど、少し遠くて、目が合うだけでどきりとする。

どうしてこうなったか思い出せない。
でも、すごく、心臓がうるさい。

「…え、あ、の」
「……」

黙ったままの彼が怖い。
ずっと同じ距離でずっと見られてるなんて。
目線を逸らそうとしても許してくれないし、顔を隠そうとしたって両手を押さえつけらえてたら身動きは出来なかった。

「……きゃぷて、」

そうつぶやいたところで彼の顔が、近付いたような気がして、ぎゅっと目を瞑る。
だけど、何も、なくて。

ゆっくり、目を開くと、彼の形容しがたい色の瞳が、こっちを、その目の中に、私が。

「…キス」
「……え、?」
「されるかと思ったんだろ」


音が鳴るくらいに顔が、赤くなる。
ああそうだ、確かに、私は、そう思ったんだ。

船長に、そう、されてしまうんじゃないかって。


唇が触れるか触れない距離で、彼が笑う。

泣きそうなくらい恥ずかしくて、くやしくて、期待した自分がバカみたいだ。

「馬鹿だな」
「…ひどい、です」

こんなからかい方、酷い。
酷いのに、嫌いになれない。

「……キャプテンひどい」
「知ってる」

離れない距離。
ずっとずっと、今のまま。

視界が滲む。
涙が落ちそう。



「おい」
「…なん、ですか」

恨めしく睨み付けたときに、かぷ、と、下唇が、彼にかぷりと、噛まれた。

「……へ、」
「間抜け面」
「だ、だって、」

彼の行動が理解できなくて、でも、確かに、…嬉しく、て。



「…目、閉じろ」



静かに耳元で告げられた言葉に従うと、鼻をがじりとかぶりつかれた。



あまのじゃく



(う、うう、ううううう)
(泣いてんじゃねぇよ、馬鹿)

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