「……腫れてんな」

ベッドに座らされ、ドレスの裾を捲り上げられる。
恥ずかしい、とはわかっているのだけれど、さっき自分が犯してしまった失態の方がよっぽど辛くて、じわじわと視界がぼやけたままだ。

「…ごめんなさい、」
「何がだ」
「……あんなに、教えてもらったのに、」
「気にすんな」

貴族の令嬢とは名ばかりでマナーもろくに出来ない鈍臭い私は、何度もこの人に怒られながらもどうにか社交界に顔を出せるレベルになった。
その、初めてのパーティーで、まさか、階段でこけるなんて。

最後の一段で足を外して結構盛大に落ちてしまった。
痛いって気持ちよりとにかく顔が熱くて、心配してくれたひともたくさんいたのに、挨拶もそこそこにその場から逃げた。

裏にはローさんが待機していてくれて、すぐに戻ってきた私に彼も驚いたようだった。
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら説明すると、身体を支えられて宛がわれた部屋に入り、何でも器用にこなす彼に治療をされていく。


「他に痛むところは」
「…ない、です」

白い手袋が白い包帯を巻いた足首に触れた。
自分より背の高い彼がしゃがんでいて、逆に私が見下ろすなんて珍しい。
泣き過ぎてぼーっとした脳内はなぜか変な方向に動いてしまったらしく、すっと手が彼の短い髪を撫でてしまった。

「……あ?」
「………あ、」

眉間に皺が寄り、その腕をがしっと掴まれる。

私、は、何て、ことを、したんだ。

今度は違う恥ずかしさが私を襲う。
そうだ、ドレスだって、彼の前で広げてしまっている。
置かれた状況を理解していくうちに、逃げてしまいたくなった。

「お前、」
「は、はい、ごめんなさ、」
「…爪割れてんじゃねぇか」
「え、…?」

掴まれた指先をじっと見られる。どうやらこけたて手をついた時に爪が割れてしまい、血が滲んでしまっている。自分でも気付かなかった。
そうやって割れた爪をどうしようか自分で眺めていたら、ぐっと手首を引かれて、彼の、舌、が、そこを這う。

「や、やめて、ください」
「……」

爪と皮膚の間を舌先で包まれ、第一関節と第二関節中間ぐらいまで口に含まれ、じゅっと音を立てて吸い付かれる。
離してほしくてベッドの上で後ずさったものの、足首に触れていた手袋が脹脛を膝を太腿を辿り。
ぐっと足を広げられてしまって、掴まれた手とは反対の方で下着が見えないようドレスを押さえた。

「ろ、ローさん」

耐えられなくて名前を呼ぶと、にやりとあの笑みが浮かんでいる。
似合わない単語を口にしながら、彼の唇に私の赤い血が染み込んでいた。



「お呼びですか、お嬢様」


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