あと少し。あと少し。
そう思って、何時間か経ってしまった。

波も穏やか、外は雲の無い夜空、甲板で一人穏やかな潮風を眺める。

何となく、まだ起きれるんじゃないかな、とか、特にこれと言って大事な用はなかったけれど、ずるずると時間が過ぎていった。

眠くない訳じゃない。寝れない訳でもない。
ただ、寝ない、っていう選択肢がそこにあるだけで。


「……何やってんだ、お前」
「あ、キャプテン」

かたん、という音と一緒に聞こえた声に、後ろを振り返った。
キャプテンこそこんな時間に何してるんですか、そう聞こうと思ったものの、まああの隈とか見てるとそういう質問はしない方がいい気がする。

「何となく、寝たい気分じゃなくて」
「そうかよ」

興味はなさそうだ。
キャプテンから目を離してまた正面を向くと、背中に結構な衝撃。

「いった!」
「うるせぇ」

多分蹴られた。背中には靴跡がついているだろう。
何てひとだ。海に落ちたらどうしてくれる。

反抗しようとまた振り向いた。ら、思ったより、キャプテンの顔が近くて。


「……寝ろ」


あのごつごつとした指が、私の額をべちりと叩く。
これも結構痛かった。ひりひりする。

「………アイアイ、キャプテン」

小さく答えて、船内に入ろうとするキャプテンの背中を追いかけて一歩後ろに続く。
いつもの笑い声が聞こえてきて余計にむっとした。

「不服そうだな」
「そんなことないですよ」
「添い寝でもしてやろうか」
「え、してくれるんですか?」
「するわけねぇだろ、お前みたいな色気も胸も尻もねぇやつと」
「ひどい!!」

でも少しだけ寝れる気分になれたので、今日は布団にもう入ろう、かな。



さっさと寝ますね、キャプテン


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