「鬱陶しい」

ソファーに座って本を読むローの足元に座って、そのまま彼の腰に腕を回して腹に顔を埋めてたら、そんなことを言われてしまった。

「別にやらしいことしてるんじゃないからいいじゃない」

そりゃ、このままズボンのベルトとかに手を掛けたら不味いっていう位には危ない格好かもしれないけどさ。
特に何かするつもりもないし、そもそもそんな仲じゃないし。

「膝の上乗ったら怒るんでしょ」
「当たり前だ」
「じゃあ大人しく抱き着かれてて」
「断る」
「いったぁ!」

ごつん、と読んでる本の背表紙を直に頭の上に落とされた。
すごく痛い。
流石の衝撃に彼から手を離して頭をさすりながらローを見ると、我関せず、みたいな顔をして本を読み続けている。
むかつく。

「じゃあベッドで読んで」
「ああ?」
「そしたら私も勝手に出来るし」
「まとわり付かれんのが鬱陶しいんだよ」
「ならさっきの体勢続行する」
「……っるせぇな」

ぎろり。あら怖い。
でも長年幼馴染なんてやってるとそんなのも別に何とも思わなくて、ずっと彼の視線を真っ向から受け止めていると、ローは立ち上がり、心底面倒臭そうにベッドの方に腰掛けた。

ぱらりとまた読書を再開するのを尻目に、私もいそいそとベッドの上に乗り上げて、彼の背中に抱き着いた。

昔は私の腕を回しても、二人分くらい纏めて抱き締められる程度には細かったのに。
今は一人分でもやっと。感じ悪い。
ひとりでにょきにょき大きくなっちゃって。

腹いせにぎりぎり力を込めた。
ローは全然、気にならないみたいだけど。

背中にぐりぐり額を押し付けて、飽きたらパーカーのフードにちょっと噛み付いて、頬を心臓の方に押し当てて。

構って欲しい訳じゃないの。
ただ、そうしたいだけ。
ローも長年の付き合いでそれをわかってて、鬱陶しがる癖に、結局私の好きにさせてくれる。

「ロー」
「………」
「赤ちゃん出来ちゃった」
「わかりやすい嘘付くな」
「何で嘘ってわかるの」
「俺とヤってねぇからな」
「他にもみんないるじゃん、シャチとかペンギンとか、あとこの間の街のひととか」
「お前が俺以外とガキ作る訳ねぇだろ」
「何それ」

私たち、そんな関係じゃないのにね。
でも納得しちゃってる自分もいて、だからって今そう言う関係になりたい訳でもなくて。

「ロー」
「鬱陶しい」

回した腕を取られて、指先に軽く彼の唇が当たる。
ああもうほんと、彼は私のことを良くわかってるんだから。


長年のお付き合い


(こいつら付き合ってない)

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