ひぐ、と女のくすんだ泣きが聞こえる。
ああ、目障りだ。

「うううう、なんで、どうしてんですかね…!」
「……」
「わた、わたし、どこが、だめ、だったんでしょうか、……」

ぐす、ぐす、と傍にあるティッシュを手に取り、その汚くなった顔を拭うものの、それはすぐに役に立たなくなって、また何枚も、何十枚も消費していった。
俺はずっとそれを眺めるだけで、特に話を聞いてやることもなければ、ティッシュを差し出してやることもない。
ただ勝手に女が呟いて、嘆いて、そうして暫くすれば、すっきりとした笑顔を浮かべる。

何度も経験していることだ、わかりきっていた。
女、…ヘレンも、何度も男に振られて、何度も同じ経験を踏んでいるのに、治そうともしないあたり、病気なんじゃねぇかと思う。
医者の俺としても、面倒だからいい加減どうにかしたい。

「おい、ヘレン」
「っく、…あい、なん、ですか、きゃぷてん」

鼻声でぐすぐすぐすぐす。
目は真っ赤、鼻も真っ赤、特別良い顔してるわけでもないのに、余計に台無しだ。

「何でてめぇはいつも俺の部屋に来るんだ」
「だって…きゃぷてん、話聞いてくれるし……うう、」

聞いてんじゃねぇよ、お前が一方的に話してるだけだろ。
頭を小突くと、ヘレンは小突いた俺の手に額を摺り寄せ、より声を大きくして、その癖微妙に抑えた泣き声を上げる。
そのまま頬を通って首筋を通って、また頬を辿って、幾分かの水滴が手につき、水滴を自分の唇に運んで、舌先が塩辛さに痺れた。

「ヘレン」
「あい……」
「いつまでも逃げてんじゃねぇよ」
「……へ、」
「お前が好きになる男、全員どういう奴かわかってんだろ」

それがどういうやつか、俺の口から言わなくてもわかるだろう。
誰に、似てるか、なんて。

「……きゃぷてん、あの、ええと、…」
「目障りだ」
「あ、う…」
「好きな女が、他の男のことで泣いてて嬉しがるやつがいると思うか」
「………あ、の、それって」
「泣くなら、俺のためだけにしろ」

ああ畜生、いつまで経っても、目障りだ。
また目に水を溜め、この女は下手糞な泣き方をする。

「わかったな」
「うううう…きゃぷてん、すき…!」

どすん、と力任せに身体をぶつけられ、それでも所詮女の力だった。
背中を軽く叩けば嗚咽が聞こえ、きっと服も汚くしやがるだろう。

…ま、でも、今までよりか、少しは、マシか。


わがまま聞いて


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