「ほら飲め飲め!」 「ヘレンのために開いたんだからな!」 「誕生日おめでとう!」 「あはは、ありがとー!」 今日は、宴会。 私とあと何人か、クルーが多いこのモビーでは、毎日のように、沢山のひとの誕生日が繰り返される。 毎日、宴会を開いているのと変わらない。 この船で、何回誕生日を迎えたのだろう。 何歳、歳を取ったのかな。 毎年嬉しかったのに、今年は全然、楽しくない。 きらきらと光る星の下、真っ暗な海を前に、ひとり荒っぽくお酒を煽る。 もうすぐ日付も変わってしまうのに。 あなたからは、全然、何ひとつ言葉をもらえてなかった。 付き合ってからは毎年、朝一番に、言ってくれたのに。 今日の朝は忙しいらしく、彼とベッドを一緒にしてなくて。 今だって、ひとり彼は書類とにらめっこ。 何よ、彼女の誕生日くらい、一日とは言わないから、少しだけでも一緒に居てくれたっていいじゃない。 「…ばか!」 お酒も入って、子供っぽく叫ぶ。 でもあっちでは宴会、こっちでも宴会、叫んだ声は海の中に飲み込まれて。 何よ、うそつき、毎年一緒にいてくれるって言ったじゃない。 「うそつき、」 ぼとりと目から水が零れ落ちた。 誕生日なんて今更喜ぶ歳じゃないってわかってるけど、誕生日、くらい。 勢いに任せて、コップごと海に落とそうと振りかぶる。 と、その腕が急に掴まれて、ごとん、甲板の上に落として、酒が靴の底を濡らす。 「………悪かったよい」 「……マル、コ、…?」 腕を掴んだその手から、辿って、見上げれば、望んでいたその顔で。 何で、どうして、今更。 「…仕事、どうしたの」 「終わらせた」 「全部?」 「全部」 「…遅い…っ!」 散々待たせて、何よ、何よそれ。 悔しくて、その胸元をごすんって叩く。 全然びくともしない、くやしい。 くやしくてそのまま抱き着いて、そのまま暴言吐いて。 「許してくれ」 「……いや」 「どうすればいいんだよい」 「………いつも通りにして」 いつも通り、抱き締めて、頭を撫でて、背中を撫でて、色んなところにキスして。 そんな我儘をいったら、彼は簡単に額だけに唇を落としてきて、部屋でしてやる、なんて言った。 じゃあ早く。 はしたなくて良い。一緒にいれれば良い。 「ああ、そうだよい」 「ん、」 宴会最中で騒いでる奴らなんて、結局自分たちに夢中で何も見てないんだ。 滅多にしない恋人繋ぎをして、そいつらの間を縫って歩く。 「…おめでとう、ヘレン」 なによ、ばか。 ばか、あいしてる。 その日の最後 ********** フォロワーさんのお誕生日に。 |