「せんちょー!」

甲板でいつものあのカッコいい背中を見つけ、その背中に両手を広げて飛びつきにかかる。
船長私の愛を受け止めて!

「うるせぇ」

細身なのに筋肉のついた背中に飛び込むつもりが、私の顔面にあたったのは日に照らされて熱くなった甲板だった。超痛い。

「まったまたー!照れちゃって!」
「おい誰かこいつ黙らせろ」

避けられるのはいつものことだから別に気にならない。ちょっと鼻先擦りむいただけで鼻血も出てないし。
すぐにむくりと起き上がって船長の後を付いていく。
ここの所海に潜ってないから他の海賊に狙われることも多くて、多分異常がないか見に来たんだろう。
戦闘員より雑用係に近い私にとって本当はすごく怖い状況でもあるんだけど、船長がとっても強くてかっこいいし、何よりとにかく楽しそうに戦う姿がかっこいいので全然構わない。

「ちょこまかすんな」
「はい!」

船長の周りをくるくる回ってたら怒られた。
言われた通りにただ後ろにひっついて歩くと船長が口角をちょこっと上げてくれたので、私としてはとても嬉しい。船長かっこいい。
遠くで他のクルー達が私を見て犬だとか何だとか言ってる。船長の犬とか名誉なことじゃないか。

「あ、せんちょー、知ってました?今日ってキスの日なんですって!」
「へえ」
「さっきシャチが教えてくれたんです!」
「そうか」
「だから私とちゅーしましょう!」
「寝言は寝て言え」

刀の鞘で頭を叩かれた。さっき甲板に顔面強打したのより地味に痛い。
でもあんな重そうな刀をそんな器用に使える船長は流石だ。

「せんちょ!せんちょ!」
「待て」
「わん!」
「……」
「………」
「………?」
「……………」

あれ、お気に召さなかったんだろうか。
振り返ってこっちを呆れたように見てくる船長に首を傾げて次の指示を待てば、今度は鼻先を指で弾かれた。さっきよりは痛くない。

「せんちょ?」

私の鼻を叩いた距離のまま動かない船長。
いつもよりちょっと距離が近くてどきどきする。
目を合わせてるのも恥ずかしくなって、うろうろ視線を彷徨わせると、船長がにいって、何か思いついたみたいに笑った。

がしっと肩を掴まれて、私の心臓が有り得ないくらいに跳ねる。

「せ、んちょう…?」
「キスの日、だったか?」

整った綺麗な船長の顔が近付いてきて、内心叫びそうになりながら、ぎゅうと目を瞑と、がじり、と鼻梁に痛みが走った。

「期待してんじゃねぇよ」

びっくりして目を開けるといつの間にか船長は遠いところに居て、顔がかあっと一気に赤くなった気がする。
いや別に、そんな、期待とか、して、…ない訳じゃなかったけど、でもでもでも船長…!

「せんちょーのばかあああああ!!!!」

そう叫んで、こっちを見ない背中に飛びついた。
…いや正確には、海に飛び込む羽目になったんだけど。


愛玩動物



(きゃん!!冷たい!!!)
(誰かあれ引き上げてやれ)
(何やってるんですか船長……)


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