野菜を切って、ページをパラパラ、火に通して、ページをパラパラ。
本を片手に、私は今慣れないことをしている。

昼を食べそびれた、だけど腹が減ってる、そう言葉少なげに伝えてきた船長に、じゃあ私が作ります、なんて意気込んでしまって、こうなった次第だ。

別に料理が出来ないとかそういうんじゃないけど、…少しでも美味しいものを食べてもらいたいし。
だからといってそんな時間をかける訳にはいかないから、至ってシンプルな料理だ。


やっと簡単だけど見栄えが良さそうなものが出来上がって、いつもより更に機嫌が悪そうな船長の前にお皿を出す。
他のみんなは船長の不機嫌さにさっさと食堂から逃げたらしい。

ふたりだけ。
船長がフォークを使う音、咀嚼する音。

本当は美味しいかどうか、ちょっと聞いてみたい。
でもコックさんの美味しい料理と比べられてしまったら、どんな答えが返ってくるかわかっている。

「……」
「……」

ずっと彼を見つめてるなんて出来ずに、流しで片付けられるものから片付けていく。
お互いに無言で、私だけそわそわしっぱなし。
恐らく、不味いって言われなければ、全部食べて貰えれば、大成功なんだろう。


がたん、と椅子が引かれる音がした。
流しから目を離すと、船長が食べ終わった皿を片手にこっちに向かってきていた。

「船長、片付けておきますから、そのままでも」
「こんなもん大した手前じゃねぇだろ」
「……ありがとうございます」

流しに皿が置かれる。
隣に立つ船長は、私に比べて随分背が大きい。
細く見えるけど袖から覗く腕は逞しいし、手も大きい。

その手が、ふと、私の濡れた手首を掴んだ。

「せんちょ、」

意味がわからずに隣を見上げようとした丁度、腕を引かれて、船長の顔が、すぐそばにあった。
屈んでるのか、こんなに、こんなに近くで彼の顔を見たことなんて。

それより、それより、これは。どういう。

「え、あ、」

多分、きっと、キスされて。
かっと顔が熱くなって、少し離れたけど、まだ近いところにある顔に、混乱が増す。

「礼だ、礼」
「なん、なんで、そんな」
「不味くなかったからな」
「へ?」
「料理、不味くはなかった」

それって、美味しくも、なかったってことだろうか。

「次作る時、もっと味濃くしとけ」
「へ、あ、はい」

……それって、次も作って、いいってこと?

「あと、他のやつには作んなよ」

いつの間にか戻っていた身長差、見上げた顔はいつもの距離で、大分安堵した。それと少し、残念にも。

ただ彼の言う言葉にこくこくと頷き、唇に残った自分の料理の味に、また勝手に顔が熱くなった。


御礼参り!


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