今日は厄日だ。
絶対に、厄日だ。

ルッチさんの部屋を掃除しようとその部屋に入り、何もないところでこけて、壁にかかっていた飾り物が私に向かって急に落ちてきて、頭に直撃し、頭を押さえながらその飾り物を片付けてる時にどっかに服を引っかけて破け、しかも同時に私の靴が壊れた。
普通有り得ないだろう。
どうして靴底が急にべろっと剥がれる。そんなこと想定してる人間なんていない。

そして終いには、靴が壊れた拍子に脚を取られ、転びはしなかったものの、部屋の椅子に掛かっていたルッチさんのスーツの上に破壊されつくした飾りの残骸をぶちまけてしまった。

「………うわあ」

もう、何から手を付けていいんだ。
……いや、とりあえずルッチさんの物からだろうな。

飾りの破片でスーツを傷つけていなければいいけれど。
靴をかなぐり捨てて、スーツを持ち上げ、手で破片を払う。

「…よかった」

解れや傷は見当たらない。
どうやら無事らしい。不幸中の幸いだ。

とりあえず、散らばった破片をまた掻き集めようとすると、今度は裸足のままだったのが悪かったのか、足裏に破片が刺さって膝から崩れたらそこにも刺さって、大惨事を引き起こした。

「……もうやだ痛い」

こんなに不運が重なって、どうしてこんな散々な目に合わなきゃいけないのかと。
痛みよりその不幸に涙が出てくる。

「……何やってんだ、ヘレン」

しかも、その現場をルッチさんに見られるとか。

「自分の不甲斐なさに涙してます」
「そうか」

ルッチさんは私に、というかスーツに向かってそこらの破片を踏みつけながら扉から歩き出す。
スーツを手に取るかと思いきや、その高い身長から座っている私を見下した。

「…この惨状を説明しろ」
「色々ありました、一言で話せません」
「そうか」
「はい」
「お前、靴は」
「ぶっ壊れました」
「そうか」

私の足を見て、彼は厳しい顔を更に不機嫌に歪めた。
血だらけの足(主に足裏と膝)で床をこれ以上汚さないように座っていたけど、さてこれからどうやって動こうか。

「ヘレン」
「はい、何でしょう?」
「お前の部屋に替えはあるのか」
「ええ、そりゃ勿論」
「わかった」

ルッチさんは私の部屋に行って靴を取ってきてくれるのかもしれない。
それはありがたいけど如何せん止血もしないままってのは……いや、文句も言えまい。

「掴まってろ」
「は?」

掴まるって。
疑問はすぐに解消した。一度私の前にしゃがみ込んだと思ったら、私を抱き上げたのだ。

「……ど、こに、掴まれば」
「知らねぇよ」

姫抱っこじゃなく、普通に抱き上げられた。
幼い子を抱き上げるかんじに。

だから、まあ、身体は密着するし、顔も、驚くほど近い。
掴まる場所なんて、落ちないように彼の首に腕を回すしかなくて、余計に恥ずかしくなった。
心臓はすごい音を立ててるのに、ルッチさんから伝わるのは多分普段と変わらない、平常通りの心音。
恥ずかしがってるのは私だけか。うん、知ってた。

「……うるせぇな」
「すいませんすいませんすいません」

しかもお見通しときた。どこまで私は可哀そうなの。
ああもう、ほんと。



なんて日!


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