ルッチさんが喋るな、と仰ったから私は黙った。
そうしたら、今度は何か喋れ、と。

「私、どうすればいいですか?」

そう尋ねたら自分で考えろって。
わからないから聞いたのに。
ルッチさんって、不思議なひとだ。

喋らなくてもいいのだろうけど、私は生憎ルッチさんとお喋りがしたいので、勝手につらつらと今日あった出来事を述べていく。
ジャブラさんが相変わらずギャサリンさんに一途だとか、カリファさんがもう着ないからって可愛い洋服をくれたとか、そんな他愛もない話。

ルッチさんはそんな私の話をソファーに座って、眉を寄せながら聞いていた。
やっぱりうるさいんだろうな、と思って口を閉じたら、今度は不審そうな目で見られてしまった。

「お前、もう寝たらどうだ」

こち、こち、と時計がなっている。
時間は、日付が変わる少し前。
恋人でもない、ルッチさんから見たら子供みたいな私がこんな時間までこの部屋にいるのは、本当はよろしくないに決まっていた。

だけど。
だけどね、ルッチさん。

彼は不機嫌な顔のまま、そこから動かない。
だから私も、動かない。

「寝ないつもりか」
「いえ、寝ます」

こち、こち、早く、鐘が鳴らないかな。
そうやってルッチさんの鋭い目から逃れるように視線を彷徨わせていると、部屋の、さっきまで秒を刻んでいた時計が低い音を鳴らした。

0時。
日付が、変わった。

「ルッチさん」
「何だ」
「寝ます」

へこり、頭を下げて扉に向かった。
彼はやっぱり怖い顔をしていたけど、もう時間だから。


「お誕生日おめでとうございます、おやすみなさい」


扉を閉める直前、そう背中を向けて、素早く扉を閉めて、自分に宛がわれた部屋に足早に向かう。
きっと私なんかより何十倍も頭が良いんだから、私が渋ってた理由はすぐにわかってしまうだろう。


「おい」

「え、」


顔が熱くて嫌だ、何て沸騰した頭で考えてたら、がしっと、急に、腕を掴まれて。
…え、あ、あれ、ルッチさん、なんで。



「言い逃げとは、随分だな」



滅多に笑わない彼が、口角を上げて、私を見下ろしていた。

あ、この顔初めて見るけど、多分やばいやつだ。

冷や汗が流れるとともに、ルッチさんに抱え上げられて、私の両足は暫く地面に着くことはなかった。



どうしてかなんて、聞かないで。


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