武田の兵達がせわしなく動いてる、勿論某も。

それもそのはず、二日後武田軍は川中島へと発つのだから。

お館様が長年の上杉謙信との因縁を今度こそ果たす為、いつもの戦より入念に戦の準備が行われていた。



某も武田の、お館様のお役に立つ為にと、愛用の二槍の手入れを入念にしていた。その時、


「…幸村。」


馴染みのある可愛らしい声がした。その声に顔を上げると、そこには姫様が立っていた。

「姫様、如何なされた?」

「…また戦?」

戦の前、姫様は決まって不機嫌になる。いつもどこかつまらなさそうな、寂しそうな様子で聞かれるのだ。
そんな姫様に某は笑顔で答える。

「そうでございます姫様。ついにお館様と上杉の因縁が付くのでござる。」

「…そう。」

「この幸村も、お館様のお力になれるよう全力を尽くすつもりでござる!」

出来る限り明るく、姫様が笑顔になってくれるよう振る舞っているのだが、姫様はずっとムスッとしておられた。

「…」
「姫様…戦がお嫌いでござるか?」

姫様は何も言わずに頷いた。これも戦前に必ずある事。

「…姫様、大丈夫でござる。お館様も某も必ず帰って参ります。…貴女様の元へ。」

姫様に優しく微笑みかけるが姫様はそんな某の顔を見て悲しそうな顔をした。

「帰って来てくれるけど…いっつも傷だらけじゃない。父上も佐助も幸村もみーんな。」

「少々の怪我は致し方ありませぬ。姫様が望むのなら…出来るだけ傷を負わないように気をつけます。」

『約束いたします。』と言って某は姫様に小指を差し出す。幼子がよくやるゆびきりという奴だ。…今の某にはこのような事しか姫様にして差し上げられない。

某がまだ弁丸だった頃ならば姫様の頭を撫でたり、手を握って不安を和らげて差し上げる事も容易に出来ただろう。

しかし、もう某は弁丸ではないのだ。

気安く触れていい方ではないのだ、本当はゆびきりもいけないことかもしれない。


「…私がゆびきり嫌いって知ってるでしょ?」

「…申し訳ありませぬ。」

また不機嫌そうに姫様は言う。そう、姫様はゆびきりがお嫌いだ。それなのに某は毎回こうやって姫様にゆびきりをしようと申す。


もしかしたら、某は姫様に触れたいと思っているのかも知れぬ。(は、破廉恥でござる!)

「…では、某は一体どうすればよいのでござろうか?」


いつもの様に困った顔をして某は姫様に聞いた。
そう聞くと必ず姫様は同じことを言う。

「…ちゃんと帰って来てよねっ」

そして姫様は廊下を走って行ってしまった。

「…承知いたしました、」


某は某しかいない廊下で姫様が去った方を向いて微笑んだ。




(こんな不機嫌な姫様も、戦から帰ると笑顔で迎えてくださるのだ)

(その笑顔の為ならば、某は頑張ることが出来るのでござる)


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