ご帰還なされた父上達は、いつもと違う少し険しい表情をなさっていた。
なにかあったのかと聞いても何も語ってはくれなかった。…文では帰ってから詳しく話すとあったのに。

幸村も、私に会いに来てはくれたけど、やっぱりいつもとは様子が違った。

また近い内に戦がある、直感的にそう思った。

幸村も当分上田には帰らないと言っていたし、きっと。

その事を考えると、凄く不安になる。どんなに頑張って追いつこうとしても、どんどん引き離されていく。

いつか、見えなくなったらどうしようって、そんなことばかりが頭の中にあった。






ある夜、私はどうしても眠れなくて夜着のまま自室を抜け出した。

屋敷の周りには兵達がいる。だから外に出ることは出来ないから、廊下をフラフラと歩いていた。
しばらく歩いていると、明かりが灯っている部屋を見つけた。

「…父上、起きていらっしゃるのかしら?」
襖の前で立ち止まると、中からは幸村と聞いたことのない女の方の声が聞こえてきた。

「…もしや、祝言の日取が決まったのでござるか!」

「なんの日取りですって…!」

「しゅうげん…!?」

幸村が発した言葉に耳を疑う。
祝言って…誰と誰の?
もしかして、そこにいらっしゃる方と幸村の…?
嘘でしょう…?

襖を開けて真相を確かめたい気持ちを押さえようとすると、いつの間にか襖の向こうの話題は変わっていたようで、再び幸村の声がした。

「お言葉ではございますが、お館様のお力と我が武田軍騎馬隊の底力を持ってすれば、織田の軍勢であろうと伍することは十分に出来ると考えまする!」

ガタンと何かが倒れる音がして、父上の声が聞こえてきた。

「無傷では済まぬぞ。織田を倒したはよいが満身創痍、そこを他国に突かれれば我が軍とてひとたまりもない。」

「なれど、何事もやってみなければ…」

幸村の言葉の途中で、大きな音が聞こえてきて、その瞬間、私の目の前を赤い物体が横切った。

「ゆ、幸村…?」

それは父上に飛ばされた幸村だった。幸村が起き上がろうとすると、襖が取れたせいか父上の怒鳴り声が先程よりもハッキリと聞こえた。

「常に対局で物を見よと言うておるのがわからぬか幸村!」

起き上がった幸村はふらつきながらも、また部屋へと戻っていく。

「申し訳ございませぬ!しかしながら謙信公以外隙あらば漁夫の利をと狙う他国の武将達が、果たして呼び掛けに応じるでしょう…」

再び、私の目の前を幸村が飛んで行く。

「きゃあ!?」

先程は襖があったからさほど遠くへ飛ぶことはなかったけれど、今回は障害が何もなかったため、幸村は塀に人型が出来るくらい強く叩き付けられた。

「矛盾しておるぞ幸村!何事もやってみなければわからぬと、お前自身が申したであろう!」

塀から落ちる幸村を見て父上が歩きだした。

「よいか幸村よ!目の前の敵へと突進む為には、先ず対局数兵を見極める目を持たねばならぬ。」

「はっ!お館様!」

父上の言葉に幸村が地面に座り頭を下げる。

そこでふと、部屋をみると襖から父上達の様子を見ている女の私から見ても美しいと思ってしまうほど綺麗な女の方と目があった。
一体この方は誰なのでしょう。

「ひ、姫様!?」

幸村の声にハッとして外にいる幸村を見る。幸村はとても驚いたような顔をしていた。

「十六夜…何故このような場所におるのだ。」

「すみません父上…どうしても眠れなくて廊下を歩いておりました。」

「すみませぬ、姫!あの…某が吹き飛んだ時、お怪我はなされて…!」

幸村がとても心配そうな顔と声色で、膝をついたそのままの状態で聞いてきた。

「少しびっくりしただけ、怪我はしていないから大丈夫よ幸村。」

「そうでございますか…よかったでござる…」

幸村は心底ホッとしたような顔をした。

「十六夜、外は危ない故、部屋に入っておれ。」

「はい、父上」

父上に言われたように、父上達が話をされていた部屋に入って、腰を降ろした。

「…幸村よ、話を元に戻すぞ。」

「はっ!」


父上は再び話し始めた。


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