今日の配達も終わったし、さあ帰るかと考えていた私の耳に、親友リリィ・フォルトゥーナの声が聞こえてきた。

「リーシャ!待って!」

「リリィ?どうかしたの?」

珍しく気弱なリリィの表情。あの、いつも強くてしっかり前を向いている彼女がこんな顔するなんて、ただ事じゃない何かが起こったんだと思う。

「ここじゃ言えないから、リーシャの家にお邪魔してもいい?」

「いいよ。リリィならいつでも大歓迎」

「ありがとう」

そう言って、リリィはふわりと笑ったけど、その笑顔はどこか儚げだった。一体、彼女に何が起こったというの?



「はい、どうぞ」

「ありがとう」

元気のないリリィにホットミルクを渡した。そして、レイラにもミルクをあげてから、私もホットミルクを一口飲む。

「ところで、話って何?リリィの様子からして、何か重大そうな話だけど、私でいいの?」

マグカップをテーブルに置いて、私はストレートに本題に入った。

「うん、リーシャじゃないと駄目なのよ」

そう言ってから、リリィもマグカップをテーブルに置く。そして、まっすぐに私を見つめて、こう言ったのだ。

「ねえ、教えて。どうしたら、好きな人の体を求めたいと思えるの?」

「………はい?」

私がしばらく固まってしまったのは言う間でもない。だって、あのリリィがだよ?私にゴーシュを落とすテクニックを教えてくれた張本人が私に相談ねぇ…。

なんて考えつつ彼女の顔を見れば、真剣そのものだ。つまり、彼女は本気で悩んでいるという事で。よし、この私、リーシャ・フィゼルが受けたご恩を忘れずにお返しするね。

「何でまた、突然そんな事言い出したの?」

まずは、その悩みに至るまでの過程を聞かなくちゃ。もし、ジギー・ペッパーが無理矢理リリィを抱こうとしたなら、がつんと言ってやるんだから。

「実は………」

リリィが話した内容を簡単にまとめてみる。この前の私の惚気を聞いて、自分の場合と比較してみたらしい。で、ジギーは一切手を出してこないから、抱かなくていいの?と彼に訊いたら、リリィが心から抱かれたいと思った時に抱くとの答えが返ってきた。彼に我慢させるぐらいなら、無理してでも抱かれた方がいいんじゃないかと思い悩んで、今に至る。

「大事にされてるからいいじゃない。待つと言ってくれてるんでしょ?なら、待たせちゃえばいいじゃん」

とりあえず、話を聞いた感想を言ってみる。そう思えたら、相談なんてしないよねと思いながら。

「そんな風に割り切れないから悩んでるのよ!私には相談できる人は、リーシャしかいないから…」

すると、リリィは泣き出してしまった。はい、ごめんなさい。私が悪かったから、そんな泣かないでよ。

「ごめん、泣かないでよ。私が悪かったから。ちゃんと答えるから、ね?」

泣いているリリィに、私はひたすら謝る。泣かせるつもりなんか、なかったんだって!

「ちゃんと答えてくれる?」

「うん、ありのまま正直に答えると約束するから」

やっと顔を上げてくれたリリィに、私はしっかりと約束する。

「なら、いい。リーシャがちゃんと答えてくれるなら、それでいい」

そう言って、ふんわりと笑ったリリィはとても綺麗で、私はしばらく見とれたのだった。



「で、リリィが知りたいのは、好きな人の体を求めたいと思うにはどうしたらいいか?って事だよね?」

私は改めて確認するために、泣きやんだリリィに問いかける。

「うん。リーシャはゴーシュさんに抱かれているから、私も参考にしたくて…」

参考にって言われても、そんな所あるのかな?という疑問は置いておく。リリィが知りたいなら、私は話すだけだから。

「何を話せばいい?」

「まず、初めて抱かれた時の事を詳しく教えて」

訊かれて、私はその時の事を思い出す。恥ずかしいけど、話すとするか。

「初めて抱かれたのは、付き合った当日だよ」

「え?」

「告白されて、気が付いたらゴーシュに抱かれてたの」

驚いているリリィをよそに、私はその時の事を話していく。

「実は前日の配達で、私がビフレストから落ちて風邪を引いて倒れたんだよ。その時服を脱がして看病してくれたのが、一緒に配達に行ってたゴーシュ。つまり、私はその時彼に裸を見られてるわけ。それがたぶん原因じゃないかな。告白して初めてキスした後で抱きついたら、我慢できそうにないですって言われたし」

「怖くなかったの?」

恐る恐るといった感じのリリィからの問いかけ。

「怖いとは思わなかったよ。あの時はよく分からないまま、戸惑ってばかりだったし。でも、ゴーシュが大丈夫と言ってくれたから安心できたよ」

私はゴーシュの優しい笑顔を思い出しながら話した。あの時、彼は初めての私を優しく包み込んでくれた。痛みもあったけど、それ以上に感じた確かな幸せ。

「羨ましいな。私は心が許したいと思っても、体が動いてくれないから…」

儚げな笑顔を浮かべるリリィの言葉に、私はふと疑問を感じる。

「ねえ、嬉しいとは思わないの?」

「え?」

「大好きな人に体を求められて、嬉しいと思ったりしないの?」

何を言われたか分からないような表情のリリィに対して、私は疑問に思った事を問いかけた。

「嬉しい、だなんて…考えたこともなかった…。自分で自分が解らないよ…。リーシャは嬉しいと思うの?」

「当然。大好きな人が他の誰でもない私を求めてくれるんだもの。嬉しくないわけがないじゃない」

にっこりと笑って、私はきっぱりと言い切る。そもそも怖いという感覚がよく分からない。初めては痛いから嫌だという理由でもないみたいだし。

「じゃあ、今度は今の事を教えて。抱かれる前と後の心境変化とか、抱かれて得られるものを知りたい」

どうしたものかな?と悩む私に、今度はリリィがストレートに訊いてきた。

「抱かれて得られるもの、ねぇ…」

抱かれている時の事を思い出しながら、私は口を開いた。

「前後の心境と重なるけど、答えるね。まず、愛されてる実感が得られるかな。必要とされてるわけだから、その時点で幸せだし。あとは、いつもと違う彼の一面が見られる事も嬉しいよね。私だけに見せてくれてると思うと、それだけで胸が高鳴っちゃうよ」

「精神的な要素だね。……体は、気持ちいいって聞くけど…そうなの?」

「うーん…。正直言って、体の方は与えられる快楽を受け止めるだけで精一杯だよ。気持ちいいは気持ちいいんだけど、その気持ちよさに体が耐えられない感じかな」

リリィの躊躇いながらも突っ込んだ内容の質問に、実は内心でたじたじだったりする。まさか、ここまで私の内面を赤裸々に語る羽目になろうとは…。

「そっか…そうなんだ…。リーシャの話を聞いていたら、何だか少しだけ解った気がする。ジギーが何で、待ちたいって言ったのか」

「………あんな話でよかったの?」

「うん、とっても参考になったよ。リーシャ、ありがとう」

突然のリリィの発言に驚いてる私の両手をぎゅっと握って、彼女は嬉しそうにお礼を伝えてくれる。喜んでくれたみたいだし、まあいいかな。



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