今日の業務は、医療班のお手伝い。
ここのところ、体調を崩している従業員が多いらしく、医療室に人がひっきりなしにやってくる。
それも、BEEなど外勤の者たちが特に多く、配達の遅延など郵便業務に支障が出ているほどだ。
普段、医療室に従事しているスタッフだけでは人員が足りないらしい。
それで私の方にまで、医療班への応援の依頼が舞い込んできている。


「・・・今日は用事があるので、お先に失礼しますね。お疲れさまでした」


まとめあげた今日の受診者記録と、大量の個人カルテを棚に戻す。
最近、人工太陽の調子が少し怪しいらしい。
普段ほとんど気温の変化などみられないユウサリには珍しく、ここ数日は蒸し暑い日が続いていた。
郵便館従業員の体調不良の多くも、恐らくこの外気温の崩れが一役買っているのだろう。


「もうこんな時間か・・・お疲れさまです。お手伝い ありがとうございました」

「お疲れさまです、フォルトゥーナさん」


帰り支度をしながら壁付けされた振り子時計を見遣ると、とうに十八刻を過ぎていた。
先抜けの挨拶に、微笑んで返してくれる医療班の人たち。
普段からアーロン博士の元に従事しているせいか、医療班の人たちは私に対して物怖じなく接してくれる人も多い。
そして、業務内容も医療関係という私的に興味深い分野。正直、居心地はそんなに悪くない。

・・・まあ、医療班の応援 といっても、医療室でヘタに精霊力を使ったりできないから、そこに“在るもの”で対処するだけ なんだけどね。よっぽどの緊急時以外は。


「リリィ! 待ってー!」


郵便館のロビーを出ようとすると、遠くから私の名前を呼ぶ声が響いた。


「・・・リーシャ」


振り向くと、親友がこちらを目掛けてばたばたと駆けてくる。

「そんなに慌てて。どうしたの?」

主人に遅れまいと、必死でついている彼女のディンゴが愛らしい。
疲れで強ばる頬が、自然と緩んだ。


「 今日はリリィのお誕生日でしょ! 」


息せき切って弾む呼吸の間から、明るい声音が飛んで出る。


「 だからこれ、プレゼント!
お誕生日おめでとう、リリィ! 」


茶色と白の、小さな巾着袋が一つづつ。
満面の笑顔で渡された。


「・・・・・・。
・・・ありがとう、リーシャ」


そうだった。今日は、私が生まれた日・・・。
リーシャ、覚えていてくれたのね。


「リリィの好きそうな物を選んだから!」


手のひらに乗る、親友の尊い想い。
にんまりしているリーシャの姿に、胸が熱くなってー・・・

「きっと二番目に喜んでくれると思うんだ」

・・・いたところに、謎の言葉。

「二番目・・・?」

「うん。だって、リリィが貰って一番嬉しいのはジギーからのプレゼントでしょ?
だから、二番目は私なの。
一番はジギーに譲るけど、二番は誰にも譲らないんだからね!」

ここぞとばかりのドヤ顔。
ほんと、この娘には負ける。


「もう、リーシャってば」


・・・違う。そうじゃない。
甘んじて、負けられる のだ。
大切な、かけがえのない存在・・・


・・・相手が この娘 なら、甘んじて受ける。雨でも槍でも、爆弾でもー・・・。


「今夜辺り、案外ジギーと結ばれちゃったりして!?
ほら、誕生日って特別だし!」


超巨大級炸裂弾に木っ端微塵に吹っ飛ばされた。


「 なっ!? 」


こんの、リーシャは・・・っ・・・!
感傷とかデリケートとかセンシティブとか、をとめの恥じらい ってものは無いの!?!

「何 言ってるのよ!?」

「どっちにしろ、結果はちゃんと教えてね!」

にまにま満足そうな したり顔。

「だから、リーシャ・・っ・」

「そう言えば、今日はもう仕事終わったんだよね?
だったら、一緒に帰ろうよ!」

思わず仰け反る。
そんなの有り得ない、と全否定しようとした矢先にコレだ。
けろっとした顔をして、大振りでずんずんと歩いて行く。

「・・・もう、リーシャったら」

くすっと笑いながら、彼女には聞こえない声で小さく呟いた。
郵便館の扉を開けて待つ、満面の笑顔。


・ ・ ・ 一 緒 に 、 帰 ろ う ・ ・ ・


「もちろんー・・・」


ーー・・・響く、微かな原動音。


「・・・・・・っ!」


遠く、夜想道に砂埃が煙るのが見える。
きらきらとした、紺碧の星屑。

あれー・・・あれ、はー・・・。


「・・・お邪魔虫になりそうだから、今日は先帰るよ」


はっ と我に返った。
隣りを振り向くと、残念そうに親友が笑っている。

「また今度、一緒に帰ろうね」


・ ・ ・ ま た 、今 度 ・ ・ ・


「リーシャ・・・ごめん、ね」


バツが悪く笑うと、彼女もまた微笑んだ。
くるり反転、一人歩き出すリーシャ。
彼女へ向けて、言霊を放つ。

今までも、これからも、いつまでも。

ずっと、続く。また、会える。
だから今、この瞬間に。


「 ・ ・ ・ あ り が と う ー ー ・ ・ ・」


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碧乃嬢が私の誕生日に送ってきてくれた夢。
その後日、実際に彼女からプレゼントをいただいたので 視点入れ替え版にて登場させてみました。
何かの夢にも流用できるよう、伏線とネタも仕込んでみたり。

相方、また会おう。これからもずっとよろしくね。

Fri.30.Jul.2021
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