ハチノスの廊下でばったり会ったザジと会話を楽しんでいたら、いつの間にか話題がジギーの事になっていた。

「ジギー・ペッパーって、本当にかっこいいよな!クールで鉄の馬乗ってて、みんなの憧れなんだぜ!」

「そう?私はかっこいいというより可愛いと思うよ」

きらきらした笑顔でジギーのかっこよさを語るザジに、私は同意しなかった。いや、できなかった。

「可愛い?あのジギー・ペッパーが?」

「うん。ジギーはリリィの事でからかうとすぐ赤くなるしね。おもしろいよー」

そう、私は親しい人しか知らないであろう彼の照れ屋で恥ずかしがり屋な一面を知っているから。なんたって、親友の恋人だもの。

「リリィ?」

何気なく零した名前に、ザジがぴくりと反応した。あ、そう言えば、ザジって鎧虫をやっつけたがらないリリィをあまりよく思ってないんだっけ。失敗したかもと思ったけど、いつかは知る事だしと割り切って、私は口を開いた。

「うん、リリィだよ。私の親友リリィ・フォルトゥーナ。ああ見えても、鉄の馬に乗れるんだよ。すごいよね」

「あの女、鉄の馬乗れるのかよ!?」

驚きに満ちたザジの顔。リリィが鉄の馬に乗れるって知ると、みんなそういう顔するんだよ。まあ、私も初めて聞いた時はかなり驚いたけどさ。

「たまに臨時速達やってるみたいだよ。でも、ジギーはあまりいい顔してないみたいだけどね。恋人にそんな事させられるかって」

ジギーの眉間に皺を寄せた顔を思い出して、思わず笑ってしまう。

「恋人?」

「うん。リリィとジギーは恋人同士なんだよ。知らなかった?」

予想外と言わんばかりに呟くザジに向かって、私はリリィとジギーの関係をはっきりと告げた。

「あのリリィ・フォルトゥーナと、ジギー・ペッパーが恋人?」

下を向いて、わなわなと肩を震わせてたザジが顔を上げる。

「ザジ?」

「俺は絶対認めねえからなー!」

そう言うや否や、彼は猛スピードでどこかへ走って行った。そのすぐ後ろをヴァシュカがついて行く。

「ちょ、ちょっとー!?」

ぽかーんとそれを見ていた私がはっと気づいて、慌てて追いかけてはみたものの、ザジの姿はどこにも見当たらなかった。



「もう、ザジってばどこ行っちゃったのかな?」

きょろきょろとザジを探しながら、廊下を歩いて行く。本当、どこに行っちゃったんだろう?あ、ちょうどいい所にラグとニッチを発見。早速、訊いてみようっと。

「ラグ、ザジ見なかった?」

「ザジなら、ちょっと前にすごい顔してあっちへ走って行ったよ。それがどうかした?」

ザジの行方を教えてくれたラグに、私は彼を探す理由を説明する。

「実はね、ザジにリリィとジギーが恋人同士だと教えたら、絶対認めねえ!って言って、どっかへ走って行っちゃったのよ。慌てて追いかけたけど、見失っちゃって…」

「ええー!?ジギー・ペッパーとリリィさんが恋人同士!?」

リリィとジギーが恋人だと聞いて、何故か驚いてるラグを不思議に思う。

「あれ?もしかして、ラグも知らなかった?」

私の問いかけに、うんうんと首を縦に動かすラグ。その姿を微笑ましく見ていたら、不意に思い出した。

「ごめん!私、ザジを追いかけてる途中だったのを忘れてたー!じゃあ、また後でね!」

「リーシャ、僕達も行くよ。行こう、ニッチ!」

ラグ達に慌てて挨拶してから走り出したら、彼らもついてきた。そして、私達はザジが走って行った方へ向かって行く。

「リリィ!」

「リーシャ、それにラグ君も。そんなに走って、どうしたの?」

ちょうど館長室から出てきたリリィに声をかければ、彼女はいつものようにふわっと笑う。

「ザジ見なかった?」

ニッチがリリィに抱きつく姿を横目に、私は彼女にザジの事を訊いてみる。

「ザジ君なら、館長室でのびてるわよ」

「え?」

言われた言葉の意味がよく分からなかった。何で、ザジが館長室でのびているの?

「私とジギーが恋人同士なんて認めないってうるさいから、ルーナでこう…ガゴンッと…」

「………」

私が不思議に思ってる事が分かったのか、リリィが舞鈴ルーナを取り出して再現していく。その姿を見て、私は絶対に彼女を怒らせまいと改めて決意する。ラグを見れば、顔がひきつっていた。よく分かるよ、その気持ち…。

「二人とも急に黙って、どうしちゃったの?」

「う、ううん、何でもないよ!」

「そうです!何でもないです!」

にこにこと笑うリリィの問いかけに、私とラグは慌てて答える。

「というか、珍しいね。ルーナ持ってきてるなんて。配達には滅多に使わないって言ってたのに」

確か、故郷ではよく使ってた話は聞いたけど…。

「んー、そうね。今日は一日、医療班の補助業務だったの。治療や回復はルーナの方が便利だから」

まったく博士も人使いが荒いわよねと、ぶつぶつ文句を言っているリリィ。どうやら、今日はセントラル地区の訪問診療の日だったらしい。

「医療班補助の日だったなんて、ザジったら運が悪いよね…」

「そうですね…」

「…ん? リーシャ、何か言った?」

二人でこっそり話していたら、リリィから突っ込みが入れられた。

「う、ううん、気のせいじゃない?ね、ラグ!」

「そ、そうですね!気のせいだと思います!」

「そう?なら、私はもう行くね」

私達の不自然な返答に首を傾げたものの、リリィはそれ以上突っ込む事はなかった。そして、抱きついてるニッチを引き離してから、またねと彼女の頭を一撫でして、悠々と去って行く。その姿を見送っていたら、後ろから声をかけられた。

「君達、ちょうどいい所に来たね。彼、邪魔だから連れて行ってくれるかな?」

振り向けば、開いた館長室の扉の向こうに館長が立っていた。館長の指し示す先には、気絶したザジと彼の側に寄り添うヴァシュカの姿。

「は、はい!ニッチ、ザジを医務室まで連れて行こう」

ラグが返事をすれば、ニッチはすぐに髪の毛を使ってザジを持ち上げて歩き始める。

それからしばらくして、ザジが目を覚ましたんだけど…。リリィとジギーが恋人同士だという事は未だに認めたくないらしく、不機嫌そうなままだった。リリィとジギーはお似合いなのにね。




*****☆*****☆*****

リリィさんがジギー・ペッパーの恋人だったなんて・・・びっくりしたぁ。
僕は、リリィさんはてっきり館長のことが好きなんだと思ってた。ねぇ、ニッチはどう思う?

  from ラグ・シーイング

Fri.15.Jan.2021
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