「うわー、すごいすごい!ビフレストって、本当に水面ぎりぎりなんだね!」

これが、ヨダカ地方へ配達に行った時の初めてビフレストを見た感想だった。橋が水面ぎりぎりを通っているから、まるで水の上を歩いているみたい。

「そんなに喜ぶほどのものでもないと思いますが…」

その時後ろにいたゴーシュは、私のはしゃぎっぷりに苦笑していたそうだ。

「だって私、ヨダカ地方行くの初めてなんだよ?ずっと楽しみにしてたんだから!」

「はいはい。さあ、行きましょう」

私はくるりと後ろを向いて、この嬉しさを何とか伝えようしたけれど、肝心のゴーシュにはさらりと流されてしまった。

初めてのヨダカ地方の配達。私とディンゴのレイラだけで行くつもりだったのに、何故かゴーシュと彼のディンゴのロダまで一緒に行く事になったのだ。

実は暇人?と冗談で問えば、僕にも配達がありますからとのお答えが。ゴーシュって、いつも仕事と妹ばかりなんだよね。それに幼なじみも入ってるだろうし。きっと、私なんかの入る隙間はなさそう…。

「早く来ないと置いて行きますよ?」

「ちょっと待ってよー!」

気が付いたら、ゴーシュはかなり先まで行っちゃってて、私は慌てて追いかける。少しは待っててくれてもいいじゃない。



そんなこんなであっさり終わった今回の配達。帰りも当然ゴーシュと一緒だ。

「ちょっとだけだから、いいでしょ?」

「絶対にダメです」

実は私達、さっきからこんなやり取りばかりしている。私がどんなにお願いしても、ゴーシュは許してくれない。

「全く、初めて聞きましたよ。ビフレストの端っこを歩きたいだなんて、一体どこの子供ですか?大体、落ちたらどうするんです?風邪引きますよ」

「むー、ゴーシュのケチ!落ちないから大丈夫だもん」

そう、私はビフレストの端っこを歩きたいと、さっきからゴーシュに訴えているのだ。端っこを歩いたら、今よりも水の上を歩いている気分を味わえてきっと楽しいはず。そう思って呟いた一言は、ダメですとすぐに却下されてしまった。

「もう、子供でいいから端っこ歩くの!」

端っこに行ってぎりぎりの所でバランスを取ろうとした瞬間、ぐらっと体が大きく横に傾いた。

「危ない!!」

ゴーシュの焦ったような顔が見えたと思ったら、私はばしゃん!と水の中に落ちていた。

「失敗しちゃった」

「何やってるんですか!?」

水面から顔を出して誤魔化すように笑えば、ゴーシュにすごい剣幕で怒鳴られる。そして、彼は大きなため息を吐いてから、こっちに手を差し出した。

「ほら、手を貸しますから、早く登ってきて下さい」

「はーい」

その手を掴んで、ビフレストの上まで登る。やっと登り切った私は、当然の如く全身がびしょ濡れだった。

「うー、服が貼り付いて気持ち悪い…」

「自業自得です。ロダもそう思うでしょう?」

「クオン!」

「ほら、ロダもこう言ってますよ」

びしょ濡れの服は水気を含んで、重く冷たい。それが体に貼り付いて気持ち悪く感じる。そう口にすれば、一刀両断されてしまった。しかも、ロダにまで同意されるなんて…。

「レイラはそう思わないでしょ?」

「………」

「って、何でそこで隠れるの!?」

悲しくなった私はレイラに訊いてみるが、彼女はゴーシュの後ろに隠れてしまった。そして、突き刺さる冷たい視線。気まずい…。

「落ちたとは言え、端っこは楽しかったなー。今度はもっと上手くバランス取らないと」

気まずさを払拭しようと咄嗟に出てきた一言は、火に油を注ぐようなものだった。

「リーシャ、いい加減にしないと怒りますよ?」

「えー、行きにやらなかったから、問題ないでしょ?大事なテガミは濡らしてないもん。それに、濡れたのは私だけだし」

ゴーシュのいつもより低い声に気づかず、喋り続ける私。彼の地雷を踏んだとも知らずに。そして、爆発する。

「テガミを濡らさないのは、テガミバチとして当たり前です!僕はリーシャを心配してるんですよ。いつも危なっかしい行動ばかりして、目が離せないじゃないですか。そもそも、君は思い込んだら一直線過ぎる。他の意見も聞いて、もっと視野を広げて下さい。それにですね、………」

ゴーシュのお説教が始まった。途中反論したい事があって、口を挟もうとしたけど、私には無理だとあきらめた。だって、怖い顔して延々と喋り続けてるんだよ。

「くしゅん!」

長く続いているお説教を止めたのは、私のくしゃみだった。濡れた服を着た状態でいたからか、風邪を引いたみたい。何だか寒いし、頭が重いし。

「大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。ちょっとくしゃみが出ただけ。それよりも、早くハチノス戻ろうよ」

心配するゴーシュに返事をしてから、私は重たい足を動かして歩き出す。自分の体調が悪くなっているのに気づいていたけど、知らない振りをした。



「リーシャ、少し休みませんか?」

「大丈夫だよ」

ビフレフトを渡り終えた頃から、何度もされるゴーシュの提案。私はずっと断り続けていた。早くハチノスに戻って、お家で横になりたいから。

「そろそろ休んだ方がいいのでは?」

「だから、大丈夫だっ…て…」

「リーシャ!?」

しかし、幾度目かのやりとりの最中に、私は意識を失ってしまった。



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