ハチノスのロビーにて、アリアさんが回復心弾の音色を奏でていた。優雅できれいな旋律は、まるで彼女そのもののようで…。
「ねえ、ゴーシュ。回復心弾って必要なのかな?」
私はバイオリンを弾くアリアさんの姿を見ながら、隣で曲に聞き入っているゴーシュへ質問してみた。
「必ずしも必要というわけではありませんが、あれば便利なのは確かですね」
すぐに返ってきたゴーシュの答えを聞いて、…ん?と疑問に思う。この言い方って、もしかして…。
「ゴーシュも回復心弾を撃てるの?」
「ええ。苦手ですが、一応は」
「いいなー。私も撃ってみたいなー。どうやって撃つの?」
苦手でも回復心弾を撃てるというゴーシュに羨望の眼差しを向ける。何かコツとかあるのかな?
「その前に、リーシャは心弾に何の欠片を込めているのですか?」
「好意だよ。好きな人や好きなものを思い浮かべるの」
私が心弾を撃つ時の事を説明したら、ゴーシュは何かを考え始めた。
「好意ですか…。それならいけるかもしれませんね。一度練習してみますか?」
「うん、やってみる」
ゴーシュの問いかけに頷いた私は、早速回復心弾の練習をする事となった。
というわけで、ゴーシュに連れられて回復心弾の練習場所に到着したんだけど…。
「ねえ、本当にここで練習するの…?」
「ええ。ここなら人通りも少ないので大丈夫ですよ」
「確かに人通りは少ないけど…。あっちには、サンダーランド博士の研究室があるんだよ」
そう、ここはサンダーランド博士の研究室に繋がる廊下。いくら人通りが少ないからと言っても、博士にバレたらどうするつもりなんだろう?
「あそこの扉は頑丈ですから、仮に心弾が当たっても問題ありません」
「もう、そういう事じゃなくて…」
私の心配とは微妙にずれた事を言ってるゴーシュに、はあ…とため息を吐いた私はきっと悪くないはず。
「では、僕に向けて心弾を撃って下さい」
「え?」
今聞いた事が信じられなくて、思わず聞き返した。心弾をゴーシュに撃つなんて、そんな…。
「実際に感じてみないと、分からない事もありますから」
「でも、ゴーシュが…」
理由を言われても、私は戸惑うばかりだった。私の心弾は攻撃しかできない。ゴーシュを攻撃なんてしたくないよ…。
「さあ、早くして下さい」
「心弾装填、藤槍!」
促された私は気が進まないけど心弾銃を構えて、ゴーシュに向かって心弾を撃った。藤色の光がゴーシュに吸い込まれていく。
「ゴーシュ!大丈夫!?」
「そういう事ですか。分かりました」
心配で駆け寄った私の声が聞こえてないのか、ゴーシュは一人納得したように呟いた。
「何か分かったの?」
「リーシャの心弾に込められた好意は、重たいんです。好きという気持ちが濃厚に集まって、嫉妬にまで変化している。これでは回復心弾を撃つのは難しいかもしれませんね」
「そっか…。やっぱり、私には無理なんだね…」
ゴーシュの話を聞いて、私は俯く。重たい好意に嫉妬、か…。回復心弾を撃つのは、あきらめた方がいいって事だよね…。
「誰もリーシャに回復心弾を撃つのは無理だとは言ってませんよ」
「え?そうなの?」
意外な事を言われ、顔を上げる。あんな風に言われたから、あきらめろって意味だと思っちゃったよ。
「まず、心弾に込めるこころの量を減らしてみましょう。あんなにたくさん込めていては、すぐにこころを失ってしまいますよ」
ゴーシュのアドバイスに、はーいと返事をしてから心弾銃を再び構える。込める量を減らして…。
「心弾装填、藤槍!」
「これは減らし過ぎですね。もう少しこころを込めて」
心弾を撃ったけど、すぐに消えてしまった。うーん、ちょっと減らしすぎちゃったかな。よし、次はもう少し込めて…。
「心弾装填、藤槍!」
「最初の時より込める量は少なくなりましたが、まだ込め過ぎですね。もっと減らして」
今度の心弾はまっすぐに進んでいったけど、まだ込めすぎらしい。減らして、減らして…。
「心弾装填、藤槍!」
「これでは先ほどと同じく減らしすぎです。あと少しだけこころを込めて撃ってみて下さい」
またもや心弾はすぐに消えてしまった。込める量を調節するのって、なかなか難しいね…。あと少しだけと言われても…。
「心弾装填、藤槍!」
「やはり、まだ込める量が多いですね。加減をして下さい」
半分投げやりになって撃った心弾は、やっぱり込めすぎだった。疲れた私は隣にいるゴーシュへもたれかかる。
「私にはもう無理だよ、ゴーシュ…。込める量を調節するのって難しすぎるもん」
「そう言わずに、あと一回だけがんばってみて下さい」
「分かった、あと一回だけだからね」
ゴーシュの励ましに頷いて、私は三度心弾銃を構えた。そして大きく深呼吸してから、少しだけこころを込める。
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